2004年10月8日金曜日

ふしぎをのせたアリエル号

 後書きによれば、この本はリチャード・ケネディのはじめて書いた本だそうなのです。どのように書けばいいかなんてまったく分からないまま書き出して、その結果がこの素晴らしい一冊なのですから、この人のなかにはどれほど豊かな世界が広がっているというのでしょう。私はこの人に憧れて、児童文学にのめり込んでしまったのでした。私が高校生だった頃の話です。

私は海洋冒険ものが好きです。海底二万海里、ニワトリ号一番のり、他にはなにがあったでしょうか。船という限定された世界は、無限とも思える海原 — 外世界に対峙して、そしてライバルの艦船! 同業者であり海軍であり、けれど極め付けは海賊船でしょう。ひたすら夢、目標を胸に進む船のロマンにはただただしびれます。

冒険小説といえば男の子のものという感覚もあるかもしれません。ですが、アリエル号はそうした男の子とか女の子とかつまんないこと関係なしに楽しめること請け合いです。

主人公のエイミイは人間になった人形の船長キャプテンに迎えられ海に出ます。そこからはもうスリル、サスペンス、ミステリアス。物語中に古典や聖書がちりばめられて、それが大きな謎になっています。数が大きな意味を持って物語に関わるのですが、数字と文字の関係を無理なく日本語に表した訳者には脱帽です。あれよあれよと読み進んで、最後には哀しみも。すべての謎が明らかにされるラストに落ちる哀しみの滴は、胸にじんと広がって豊かです。

航海というのは、人生に似ているのかも知れません。そこには喜びも哀しみも、人生に関わることはすべてあって、人は心を揺らしながらも人生をわたりきろうと帆を張るのでしょう。アリエル号はもしかしたら哀しいエイミイが心の中に生み出した空想なのかも知れないと、今この歳になって思います。けれどひとつの航海を終えてエイミイは、哀しみを越えたのだと思うのです。

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