2004年11月1日月曜日

アストル・ピアソラの音楽

  ウィスキーのCMで力感たっぷりにリベルタンゴが奏されたもんだから日本でもピアソラブームが巻き起こりまして、実はこれは世界的なムーブメントであったりしました。当時、十年くらい前のことになりますが、タンゴの異端者であったアストル・ピアソラがクラシック界においてまさに発見されまして、その鮮烈さは世を席捲しましたね。美しくそれでいて骨太の力強さがある生命力の躍如するピアソラの音楽は、遥かなる叙情性を湛えて聴くものの魂の奥底に灯をともします。

もしこの音楽を知らないという人がいたら、人生を無駄にしているといってかまわないくらいに価値あるものであると私は思っています。タンゴという音楽におけるピアソラの功罪 — 様々な批判があることは知ってはいますが、それでもあえてこれは聴かれるべき音楽だと思うのです。

日本でピアソラがブームになったきっかけは、ヨーヨー・マがウィスキーのCMで弾いたからだという話で、実際私も最初に手にしたピアソラはこのヨーヨー・マ(チェリスト)のアルバムだったのです。これは確かに素晴らしいもので、堂々たる大木の幹のような強さが感じれられます。

けれど私はむしろギドン・クレーメル(ヴァイオリニスト)のピアソラを好みます。繊細で少し神経質の気も見せるヴァイオリンが、滔滔と叙情的に歌い時に濁流のように押し寄せるその千変万化の妙。いやあ、抗いきれるものではありませんよ。もう身も心も任せてしまって、流され揺さぶられ翻弄されるがままです。実に美しい音楽が目前に結実するかのようです。

ピアソラの音楽はCMやBGMでもよく使われていますし、映画『12モンキーズ』では全編がピアソラの音楽で装われていました。なのでまったく聴いたことがないという人はいないと思います。

けど、ちゃんと聴いたことがない。そういう人も多いと思います。最初にもいいましたが、それは人生の損です。なので、まずは試聴でもいいから聴いてご覧になられるとよいかと。感じるところがわずかでもあれば、後はもう情感に身を任せるばかりですから。

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