2005年2月27日日曜日

しろがねの白鳥

 ルネサンス期イギリスを代表する作曲家のひとり、オーランド・ギボンズ作曲のマドリガル『しろがねの白鳥』は、その美しさ、愛らしさによってよく知られる曲ですが、その主題の痛ましさ、そして死の悲痛を表現するために用いられた増三の不協和音 — この表現のあまりに効果的なことからも、よく取り上げられる名曲です。

マドリガルというのは、イタリアに発祥した世俗歌曲マドリガーレがイギリスに流入し、独自の発展を遂げたものです。恋愛や牧歌的な暮らしが主なテーマでした。しかしマドリガルは徐々に洗練されて、後期ルネサンスにいたっては、その内容を充分に深化させていたのでした。『しろがねの白鳥』は、成熟したイギリス・マドリガルの精髄ともいってよい位置を占める曲のひとつです。

この五声部のマドリガルは、白鳥に関する伝説を歌っています。

命のあるうちは決して鳴くことのない白鳥は、その死の際にはじめての歌を歌い、そして二度と歌うことはない &mdash

このシンプルにして美しいテーマを、透明で豊かな和声にて描き、そして最期、白鳥のに呼びかける、そのdeathという言葉に不協和の響きをもって、痛ましさを端的に、しかしありありと表現するのです。

本来は — この時代においては特に — 、禁忌であった増三和音を効果的に用いることで、死の悲痛がかたちをなして胸に迫るようです。それまでのハーモニーが清浄に神秘性を讚えたものであっただけに、その出現は聴くものをどきりとさせるに充分であり、その異質さが逆にこの曲の美しさの核として際立って輝いています。

あまりにこの曲が美しかったので、私はゴシックやルネサンスの音楽に釘付けとされたのでした。シンプルにして果てない美しさを湛えた曲の数々に、魂ごとつかみとられるような思いがあったのです。

私のおすすめはヒリアード・アンサンブルの歌うもので、以下のリンクの最上部 "English and Italian Renaissance Madrigals" というのがそれです。昔はばらばらに出てたのが二枚組にまとめられて、それでこの安さ。いい時代になったなあと思います。

他のものも、試聴したかぎりではなかなかよくて、この際にいろんなバージョンをそろえるのもいいかもなと思います。けど、輸入盤の最後にあげたのは、ちょっと肉感がたっぷりめで、私にはうえっとする感じがある。じゃあ紹介すんなよって感じですが、こういうリッチな感じの歌い方が好きな人もいるかと思いまして。

しかし、Amazon.jpは検索が駄目ですね。『しろがねの白鳥』を探して、全然引っかからないんです。"Silver Swan" でも駄目、"Silver Swanne" ならなおさら駄目。取り扱ってないのかと思ったら、ちゃんとあるんですよね。

なので、とりあえず目ぼしいものを取り上げてみました。本国アマゾン(amazon.com)は試聴が充実していますので、なかなかおすすめです。いろいろ楽しんでみてください。

輸入盤

国内盤

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