2005年2月21日月曜日

ながいながいペンギンの話

  子供の頃に買ってもらった、いぬいとみこの『北極のムーシカミーシカ』は本当にお気に入りで、同じ作者のものをとせがんで買ってもらったのが、この『ながいながいペンギンの話』でした。私が子供の頃の岩波少年文庫は、カバーもない本当にシンプルな装幀で、白いカバーのかけられたフォア文庫とは随分違って見えました。けれど内容にかわりがあるわけでなく、逆に地味なその雰囲気が魅力的に思えて、すぐに私のお気に入りになったことを覚えています。

ペンギンの兄弟、ルルとキキが迷子になり、いろいろな危険を乗り越えながら親元に戻るまでの、本当にシンプルな物語なのですが、この単純さが、ペンギンの兄弟の体験して思ったことを、ストレートに子供の胸に伝えるんです。

ペンギンの兄弟は、ずっと二人だけだったわけじゃなくて、クジラの友達ができたり、また恐ろしいと聞かされていた人間のセイさんと出会った。そうした出会いがあって、また別れがあって、その別れの風景は子供心にも切なくて、涙が出たんですね。

そして、最後の南極の冬のシーンなどは、その寒さを自分自身も感じるようでした。白いゆきあらし、まっ白いはらっぱに立つペンギンたちの姿が、目を閉じればありありと浮かんでくるようで、この頃読んだ本はどれも私の心に大きな世界を描いて、今も大切な思い出としてしまわれています。

南極越冬隊から帰ってきた人がペンギンを連れ帰ってきたというニュースを見たことがあります。その時私が思ったのは、この物語に描かれたようなことは現実にあるんだということ。それまで遠くの南極の、それも物語の中の南極の出来事としておぼろげだったルルやキキが、まざまざとかたちをとって、あの冒険が本当の出来事 — それも自分も一緒に体験したことのように思えて、胸中に思いがあふれました。

ですが、こんなにも好きだった話だったのに、去るものは日々に疎しで、すっかり忘れてしまっていたんですね。ですが今日、ふとしたことで思い出して、それまで忘れていたことが嘘みたいに、ルルとキキの世界が胸に広がったんです。

子供の頃にふれたものというのは、忘れたつもりでいても、そんなことはないのだと思いました。大切に思ったものは、ずっと心の中にあるのだと、実感したのでした。

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