2005年5月28日土曜日

マッハ!!!

 『マッハ!!!』というタイ映画を見たのは、たまたま券をもらったからだったのですが、本当に見といてよかったと思える映画で、なんというのでしょうか、ジャッキー・チェン若かりし頃の香港映画を思わせるようなわかりやすさが持ち味の、華麗なアクション映画でありました。

華麗なアクションのアジア映画というと『HERO』みたいな、ワイヤーアクションばりばりの派手なものを想像されるかも知れませんが、『マッハ!!!』は違うんです。なにしろ、CG使いません、ワイヤーアクション使いません、スタントマン使いません、早回し使いませんを標榜して、主演のトニー・ジャーの体術を頼りに見せる、見せる、魅せる! 私はこれを見て、人間とは本当にこれだけ動けるものなのかと、ほんとにもうたまげました。

トニー・ジャーの駆使する格闘技とは、タイが世界に誇るムエタイでして、私はショー化したムエタイしか見たことがなかったのですが、この映画を見ると、実に多様な技の広がりを持つ拳法なんだとわかります。この映画の売りはトニー・ジャーのアクションですから、とにかくいたるところで戦わせます。賭けボクシングで、悪漢との小競り合いで、そして決戦で、トニー・ジャーはムエタイをもって戦って、その体術も素晴らしければ、戦いに臨みながらも常にクールであるさまも見事。あの油断のなさ、残心がしっかり描かれているのは、この映画が扱うのがスポーツではなく格闘技であることを表現していて、実にあっぱれであります。

とまあ、この映画はどうしてもトニー・ジャーの常人離れした身体の素晴らしさが表に出てしまうのですが、私にはそうした表向きの派手さではなく、映画の裏にずーっと流れていたタイという国の悲しい現実の方が気になって仕方ありませんでした。

富める都市と貧しき農村の圧倒的な格差もそうなら、都市部では麻薬売買が横行してタイ人の心と体をむしばんでいる。そこには明らかに経済の問題というのが影を落としていて、踏みつけにされる貧困層の上には、富を集める富裕層がある。彼らは海外資本と結託して略奪に余念がなく、そもそもトニー・ジャーが戦わなければならなくなったきっかけというのも、こうした悲しい現実があったためでありました。

この映画がいいたかった本当のことというのは、今タイが抱えている問題だったのではないかと思い、私はトニー・ジャーのアクションに心を奪われながらも、どうしてもその悲しさを払拭できずにいて、だから私はこの映画を、爽快アクション映画と呼ぶことはどうしてもできない。体ひとつを頼みにするしかない、タイの悲しい現実がつらくてたまりませんでした。

私はこの映画が日本でヒットしたように、世界中にタイ伝統の古式ムエタイの素晴らしさを見せつけながら、その現実を伝えてくれればいいと思わないではおられません。それでいつか、タイが悲しみをぬぐうことができたら、そんときには本当に爽快で痛快なアクションを見せてくれればいいなと、そんなふうに思います。

がんばれ、タイ。がんばって、よりよい明日を手にして欲しいです。

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