2005年7月13日水曜日

ウッドストック — 愛と平和と音楽の3日間

 かつてアメリカで、ウッドストックという音楽フェスティバルが開かれたことはさすがの私も知っていて、いったいどこでそんな知識を仕入れたのかはわからないのですが、中学生か高校生の頃にはこの名前を耳にしていたはずです。ですが、当時の私にはウッドストックとラブ&ピースは知識だけのもので、長くその実態を知らぬままにしてきました。ところが、今やなんとそのウッドストックを記録した映画が千円ちょっとで買えてしまうのですね。こんな歴史的な大イベントを、自宅で好きなときに好きに見られるというのは、ものすごい贅沢であると思います。私が子供の頃には思いもしなかったような、そんな時代に今自分はいるのだと、嘘いつわりなく思います。

ウッドストックを、映像によって追体験してみて、私は本当に圧倒されるような思いがしました。音楽が社会のまっただなかにその存在を主張していて、若者は音楽に自分の迷いも誇りも、問題意識も、喜びも、なにもかもを託していたんだと実感して、これは本当の奇跡であると思いました。

ニューヨーク郊外の特設会場に、全米から集まった四十万の若者という、その数もすごいのですが、そんな状況の中で特段の混乱も引き起こすことなく、本当に音楽を楽しんで、音楽をよりどころにひとつの価値、意味を共有し合ったのだということが奇跡です。流れてくる音楽は、今も通用するようなものばかり。Crosby, Stills & NashやThe Whoの歌などは今でも普通に耳にしますし、Joan Baez、Jefferson Airplane、Santanaなんかも最高。Sly & The Family Stoneのパフォーマンスは必見ものの素晴らしさで、そしてしめのJimi Hendrix。もう、こりゃたまりませんよ。この時代の音楽にちょっとでも興味があるなら、これを見ない手はありません。もう、宝の山といえるでしょう。

登場アーティストの中で、私が知っていたのはようやく半分というところでしょうか。しかし私の知らなかった人もやっぱり素晴らしくて、Richie Havensは私にとっての大発見でした。時代が時代だから、エレアコなんてのは使われてなくて、エレキギターにしてもエフェクターに凝らない本当にシンプルでソリッドな音を出していて、こうした素朴さと、それを素朴と感じさせない奥に秘められた力、音楽の力と伝えたいものがあるという強さが素晴らしくて、私はやはりこの時代とこの時代の音楽が好きなのだと再確認しました。

思い返せば、この頃がアメリカが一番輝いていた時代なんだと思います。1969年ですから、アポロ宇宙船が月に着陸したのがこの年です。ベトナム戦争のまっただ中で、前年にはソンミ村虐殺事件が起こっていたものの、まだアメリカの勢いは続くと信じられていたのがこの年(この妄信は『ウッドストック』のインタビューからも感じ取れるはず)で、そして二年後にはニクソン・ショック、スミソニアン合意。— アメリカはその勢いに陰りをみせ、混迷をいよいよあらわにしてゆきます。

そういえば、ウッドストック・フェスティバルの前年にサイモンとガーファンクルが空っぽである苦しさに悩む若者を主題に歌っていました。彼らのアメリカを探す若者たちの歌はアメリカの黄金時代の終わりをすでに見越していて、とすれば、ウッドストックの若者たちも同様に空っぽの苦しみに耐えかねて、アメリカを見つけるためにあの場所に集まったんじゃないかなんて思えます。

だとすると、あの奇跡のような三日間というのは、本当にアメリカの理想や夢がかたちになった、最後の輝きであったのかも知れません。

余談ですが、このDVD、なんと両面です。私ははじめて両面ディスクを見ました。Side Aが終わればB面にひっくり返しにいくのですが、こういうのがなんかLDを思い出させて、そういうところもちょっと懐かしさというか、心をくすぐってくれますね。

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