2005年7月30日土曜日

甲子園の空に笑え!

高校野球の予選をなんとはなしに見てみたら、なんと我が母校が決勝戦に進出しておりました。在学中のことを思い返すと、とてつもなく弱くて予選第一回戦敗退が基本、部員にしてもあんまり好くやつのないといった、そんなコメントしづらいことばっかり思い出すのですが、知らない間にずいぶんと育ったものだと感心しました。

我が母校の野球部は、残念ながら決勝戦で敗退して、一時はもしやと思う場面もあったのですが、やはり現実の甲子園というのは、厳しくそして遠いのですね。よく、連戦を戦い抜きました。お疲れさまでした。

『甲子園の空に笑え!』は、川原泉の描くスポーツもの。川原でスポーツものというのもなんか意外な感じがしますが、けれど川原はスポーツを扱ってもいい漫画を描くのですよ。

そうした川原スポーツ漫画の特徴といったら、やはりそれは現実離れしたご都合主義と、けれどそのイージーさを越えて豊かな情緒であると思うのです。ですがその簡単さについては読者も作者も、さらには登場人物さえも理解して、けれど川原の漫画の中心はスポ根ドラマにではなく、事象に向かおうという人の心の中にあるのだから、劇的要素はそれほど必要ではないのです。

川原の描いた夢の甲子園はやはり美しくて、苦労や努力を最前面に押し出すような暑苦しさにはちょっと遠慮してもらって、そうした要素が影に隠れた最後に表れるのは、幸運と、その幸運にあぐらをかかないひたむきで素直な心ばかりなのです。その心がけがあんまりにまっすぐだから、たとえ最後に現実の厳しさが理想の美しさを破ったとしても、その夢のはかなさに微笑みでこたえることもできるのです。

私たちの人生は、理想が現実の前に破れるという悲しい体験の連続で、けれどそうした悲しさを、ささやかな物悲しさと微笑みで緩和できれば、きっとまた明日には元気になれることでしょう。

こうしたエッセンスが川原の漫画にはきっと含まれているものだから、私は川原の漫画が好きなのです。誰もが笑顔のかげに努力と悲しさを隠していると思えて、なんだか泣きたくなるのです。

  • 川原泉『メイプル戦記』第1巻 (白泉社文庫) 東京:白泉社,1999年。
  • 川原泉『メイプル戦記』第2巻 (白泉社文庫) 東京:白泉社,1999年。
  • 川原泉『メイプル戦記』第1巻 (花とゆめCOMICS) 東京:白泉社,1992年。
  • 川原泉『メイプル戦記』第2巻 (花とゆめCOMICS) 東京:白泉社,1994年。
  • 川原泉『メイプル戦記』第3巻 (花とゆめCOMICS) 東京:白泉社,1996年。

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