2005年8月11日木曜日

林檎でダイエット

佐々木倫子待望の新刊『月館の殺人』が出ているのを見て、なにはなくとも購入してみて驚いたのはその装幀。なに加工というのでしょう。エンボス、じゃないな。型押ししてるわけじゃないもの。ベベル? というのも多分違う。ともかく、透明樹脂かなんかで立体加工がされていまして、いや、こんな凝ったのも久々であったので驚きました。凝った分、高めの値段にも驚いたのですが。

さて、私にとっての佐々木倫子入門は『おたんこナース』でありました。確か、途中巻を間違えて二冊買ってしまい、大学の友人にあげたとかいうエピソードがありまして、とにかく私は『おたんこナース』から佐々木倫子に入り、後は『動物のお医者さん』にはまるというお定まりのコース。しかし私の勢いはここで止まらず、既刊をすべて買い集めるという行動に出ました。そうして『林檎でダイエット』。私の愛してやまない、美人姉妹シリーズであります。

美人姉妹シリーズ! なんと甘美な響きでありましょう。椿館に住まう浅野雁子と鴫子の、優雅にして典雅な日常がきっとあなたの心に小さくとも温かな灯をともす、珠玉の小品集です。……ごめん、今までの説明、ちょっと嘘。

佐々木倫子の描く女性を愛してやまない、愛してやまないというのは私のいつもの言い分ですが、なかでも菱沼聖子が素晴らしいというのもいつもの謂です。でも実をいうと、私には菱沼さん以上に好きな女性がありまして、それが浅野雁子。美人姉妹の姉です。

姉ですが、頼りなく、だらしなく、メリハリもない雁子であります。ですが、その雁子が魅力的なのですね。確かにぱっとしたところもなく、実際とぼけた人かも知れない。ですが、その味というのは雁子にしか見いだせない味で、どれほどに素敵であることか。と、私は雁子が現実の存在でないことに歯がみをする思いでいます。

表題作の『林檎でダイエット』が素敵でありました。佐々木倫子には珍しい恋愛を扱った小品で、すれ違う心と心。ぎりぎりのところで通いあわなかった恋の悲しさつらさが心を締めつけるようです。鶴が舞う氷原での雁子の独白:

そういえば私には好きな人がいない

その時の雁子のさみしげに揺れるまつ毛に、私の心はときめいてならないのでした。

……ごめん、やっぱりここの説明、ちょっと嘘、— けれど雁子にときめく私の心というくだりは真実です。

実をいうと、私は自分自身が雁子タイプであることに気付いているのです。気付きながら、私はその罠にはまらないようにと気をつけながら、けれど雁子よろしく重荷には耐え得ず、今に至ります。

多分、今の雁子の境遇は今の私に似ているでしょう。アタシやっぱり誰かを好きになりたいといいながら、けれどうまくはいかない心模様。私は、そんな不器用な雁子が好きです。

引用

0 件のコメント: