2005年8月17日水曜日

貧乏姉妹物語

 この人の描く絵が好きだといっていたかずといずみさんの『貧乏姉妹物語』が発売されまして、ところがです、近所の本屋には見つからなくて、しまったやっぱり大阪に出るべきであったか。ですが大阪に出るまでもなく無事買うことができまして、よかった。そして読んでみて、よかった。

私がかずといずみさんの絵に落ちたのは、ネット上でふと見かけた同人誌『くろいろ』の表紙であったというのは以前にいったとおりです。雪の中、傘持って立つ黒いセーラーの女の子のイラストレーションで、雪とセーラー服と黒タイツという素敵設定もさることながら、その表情がよかったのです。物思いするような、多少の憂いも感じさせるような、そうした中間的表情の魅力がこの人の絵からは感じられるから目が離せなくなるのです。

『貧乏姉妹物語』の説明でなんで『くろいろ』からはじまるのかというと、『貧乏姉妹物語』のヒロインの一人山田きょうがこの絵の女の子を彷彿とさせたからというのが理由で、というか、もしかしたら同じ人ですか? かずといずみさんの同人誌履歴を見てみると、『貧乏姉妹本』というのが散見されるのですが、 — うーんでも多分無関係でしょう。他人の空似であろうかと思われます。

ですが、他人の空似でも、私には大きな意味があって、この本のあちこちからあの時、あの瞬間に感じたアトラクションを見つけ出すわけですから、もう転げっぱなし(いや、実際に、物理的に、転げるわけではありませんよ)。かずといずみさんの絵は、 — あの多少の憂いとさみしげなる様が含まれた絵は、強力に働き掛けるのだということを実感しっぱなしでありました。

そして、私にとってもうひとつの重要なキーワード。そのキーワードとはけなげです。与えられた悪状況に、負けず、めげず、立ち向かっていこうというその心意気が泣かせるじゃありませんか。この漫画に関してはタイトルからして『貧乏姉妹』でありますよ。貧乏状況の中で、妹に苦労をかけまいと一身に家計を担う姉、その姉を支えたいと懸命に自分の成すべきことを成そうとする妹。いけませんね、おじさんはこういうシチュエーションに弱いんです。さらに悪いことに、この姉妹が苦労を苦労と見せず、明るく笑顔で、相手を思いやりながら暮らしているという様! 私はこういうところにけなげを見つけて、危なくきょうあす姉妹の状況を作者の状況と混同して、支援物資を送ってしまうところでした。

かつて『おしん』の不憫さに心打たれた人が、主演の小林綾子に米を送ったという逸話が思い出されますね。ええ、私も危ないところでございました。

  • かずといずみ『貧乏姉妹物語』第1巻 (サンデーGXコミックス) 小学館,2005年。
  • 以下続刊

引用

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