2005年8月6日土曜日

Hiroshima

 ジョルジュ・ムスタキはエジプト生まれのギリシャ人。シンガー・ソング・ライターです。技巧派という印象はなく、朴訥に淡々と歌うというそんなイメージのあるムスタキですが、ですがその歌は心にずーっと浸透していくようです。ムスタキの歌に派手さはないですが、けれどその素朴さが優しく広がって、私はムスタキと彼の歌が好きなのです。

私が最初に好きになったムスタキの歌は、彼を知るきっかけにもなったMa Solitudeでした。私の孤独は世界の隅々まで付き従うという歌詞がとても印象的で、だから私は自分のサイトにこの歌詞をもじってAu coin du mondeと名付けたのでした。

ムスタキには日本の都市名がタイトルになった歌があります。その歌というのはHiroshima。広島をモチーフにして、ですがこの歌には広島という土地や都市、あるいは原爆の悲劇はうたわれません。あるのは、ヒロシマという象徴性。歌は、明日にはきっと平和がくるだろうと歌っています。

さまざまなものによって、さまざまなものをともに、明日平和はもたらされるだろう。鳩とオリーブにはじまり、象徴的なもの、ことが次々と表れて、そして平和は明日やってくるのです。どこに? ヒロシマに、そして未来にです。

日本語では、遠くなりゆくヒロシマというような雰囲気でうたわれるようですね。私は、この訳詩は違うと思いました。そうではない。この歌は、ヒロシマの象徴をともに、平和はきっといつかくるという未来への希望を歌い、そして逆説的に、今日の私たちは平和というものを希求しながらも手にはできていないという現実を明らかにしています。

もし日本語でこのHiroshimaの歌う内容を追おうとするなら、谷川俊太郎の『死んだ男の残したものは』がよいのではないかと思います。歌う内容の傾向こそは違いますが、同種のものを感じます。

参考

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