2005年9月28日水曜日

お菓子な片想い

 私にとって阿部川キネコとは、『明智クン!!』の作者であり、『辣韮の皮』の作者であり、『WAKI WAKIタダシさん』の作者であり、こうした漫画の作風こそが阿部川キネコらしさと思っているから、『ミス&ミセス』には驚きました。同人畑で培われたであろう幅広いスタイルの片鱗を見ることができ、引き出しがたくさんあるなあと思ったものでした。

そして、その感想は再び繰り返されます。『お菓子な片想い』はちょっと昔風のラブコメで、70年代とか80年代なのかなあ、甘少女誌風の匂いをがんがんさせています。挿入されるポエムもかなりポイント高く、けど、私にはなんかずっと、なんかパロディを読んでるような気持ちが抜けなくて……。入魂のあとがきをめくったところに本当の後書きがあるのではないかと疑ったというのは内緒です。

甘ラブコメの皮をかぶった『お菓子な片想い』で、そこはかと漂う甘酸っぱさに私はすっかりやられて、息も絶え絶えで、つらいよ、つらいですよ、悪い冗談みたいです。これはそういうギャグかなんかなのか、なんて思ったりしても、多分これはこういう表現の試みなのだろうと思います。だから、阿部川キネコの引き出しのひとつとして楽しむのが正しい読み方なのかと思うのですが、やっぱりどこかむずむずします(二重の意味でね)。

『お菓子な片想い』からは昔少女誌の匂いがするといいましたが、けれど昔風ばかりではないのが阿部川キネコの阿部川キネコたるところで、とりわけ毒舌な友人エーコたんあたりに、キネコ的辛辣がびりびりと発せられています。それどころか、親友ルイ子からもあやしげなオーラが感じられて、こうした辛口と甘表現が交錯するところに、やっぱりこれは阿部川キネコの漫画なのだという思いを強めます。

そうした思いが強まるほどに、なんかパロディを読んでいるという感じも強まるのは、ちょっと困ったところではあるのですが、そうした複雑な感触に揺さぶられるのもまた面白いものではないですか。だから、私はこの漫画、結構好きだと思います。それに結局、ちまと手塚くんの恋の行方はどうなるのだろうと思っていたりするのですから、すっかりペースに巻き込まれてしまっているようです。

  • 阿部川キネコ『お菓子な片想い』第1集 (バンブー・コミックス) 東京:竹書房,2005年。
  • 以下続刊

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