2006年2月3日金曜日

新釈ファンタジー絵巻

 私は今日という日を待ちに待って、それは二ヶ月前、いや、おととしの暮れ、否それよりも以前のこと、まだ『まんがタイムポップ』が発行されていた頃にまでさかのぼれるのではないかと思います。私の好きな漫画家、好きな漫画がようやく単行本にまとめられるということになって、今日がその発売日なのでした。その漫画家とはナントカ、その漫画とは『新釈ファンタジー絵巻』です。竹取物語に取材した漫画でありまして、月から地球にやってきたうさ耳宇宙人の女の子かぐやがおじいさま、おばあさまに大切に育てられるという、家族愛も優しく暖かい、本当に素敵な漫画であります。だもんだから、単行本化の告知を講読する雑誌に見つけたときには思わず声を上げてしまうほどに喜んだものでした。

基本的にはシンプルな漫画です。四コマ誌に連載の四コマ漫画で、主要登場人物はかぐやとおじいさま、おばあさま。そしてお友達や月のご両親がたまに出てくる。その誰もがかぐやを愛しているというのが読んでいて伝わってくるほどで、こういう慈しみというのは素晴らしいなと思います。

けど、これだけなら、多分、単行本化を焦がれるように待ちわびるほどではなかったかも知れません。ええ、ナントカのよさはこうした情愛を描くだけにとどまらず、少々ブラックでシニカルさもともなっているところにあるのだと思います。シニカルといっても多少です。けど、その多少がいいあんばいに利いているから、面白く、楽しい。扱うネタも手広く、ベースは竹取物語だから日本昔話を基軸としているのですが、西洋の童話やSF、今現在に通ずる時事ネタまで縦横無尽。その多様をひとつの世界観でまとめて破綻しているように感じさせないのだから、本当にいい調理加減だと思います。

けど、六年はちょっと長すぎましたね。単行本を出すにあたり、すべてを収録するより編集を加えたほうがよいとの判断があったのでしょう。ところどころに抜けがあるのが残念で、これは四コマの単行本なら珍しくないことでありますが、それでも少し残念に感じました。きっとこの本がじゃんじゃん売れれば、すぐにでも第二巻をということになって、未収録話も出るようなことになるかも知れないと思って、私は、おう店主、この店にある『新釈ファンタジー絵巻』ぜんぶいただこうか、とかやろうとまで思い詰めたのですが果たせませんでした。アメリカ映画で思いがけない大金を手にした若者がやるみたいに、書店の入り口で、道行く人に単行本を大盤振る舞い、配ってまわるような真似をしてみたかったのですが、しょせん私は小市民、夢のまた夢です。

けど、本当はそんな馬鹿な買い方で売り上げが水増しされるよりも、この漫画を書店で見つけた人が、おっ、面白そうだと思って買ってくれたほうがいいんです。それで、面白かったよと友達に話してくれるような、そんな風になったらどんなにか嬉しいだろうかと思います。

私には夢があります。もし、なんかの間違いで年収三億みたいなことになったら、小さな書店を起こして、目立たないながらもよい漫画を全集にして出版したい。『ナントカ全集』みたいなのをやりたい。これも、また夢でしょうか。でも、埋もれながら消え去るばかりというのは寂しく悲しいことで、だからやっぱり人目に触れて欲しい。

私にとってナントカは、そうした漫画家のひとりであるのですね。そして、ようやくその機会が訪れて、この漫画が多くの人に愛されるようになれば嬉しいなと思うんです。

余談

フェルトで表現された表紙のかぐやが超可愛いですね。いや、うまいこと回避されたとひざを打つ思いで、けどそう思った以上に素敵な装幀だと思いました。

余談2

実はまだ書き足りない。2011年辛卯まで待つか、あるいはそれ以前に書いちまうか? ああ、2011年はあまりに遠すぎます!

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