2006年2月27日月曜日

忘れません

私が以前から好きだといっている、小樽在住のラグタイムギタリスト浜田隆史氏。氏は深いラグタイムへの取り組みや音楽性、そのギターの技巧によって知られているのですが、その活動のうちにシンガーソングライターとしての顔もお持ちでいらっしゃいます。そう、自作の歌を歌っておいでなのです。当世風の流行に接近するでなく、ラグタイムに向かう姿勢がそうであるように、自分独自の世界観を大切に見つめている、そんな雰囲気のする歌ばかりです。そんな歌の中に『忘れません』があって、これはかつて氏が経験した別れを歌ったものであると聞きました。素朴な歌。ひとりの人が、自分の置かれた状況を見つめて、とつとつと語って見せたみたいな歌。『忘れません』は聴くものを前にして語りかけるように歌われる、すごく心が近しく感じられる暖かい歌です。

別れを歌った歌は数あって、そのどれもが別れの寂しさや悲しさを広く通じる言葉に変えること余念がなく、けれど浜田氏の歌はなによりもまず自身の実感の中に歌をかこって、大切に大切に言葉を磨いたすえにようやく語りはじめるよう。氏の歌に身近さを感じるのは、あなたに話したいことがあるというみたいにしてはじまる、語りかけに似たスタイルのためなのかと思います。確かに、氏の身近に起きたことが追想されるようで、その意味でこの歌は氏の個人的な歌であるでしょう。しかしひとりの人が友人に語りかける言葉は磨かれたことによって、個人的な枠組みを超え、普遍に一歩踏み込んでみせる。それは技術やなにかによってもたらされたことではなく、言葉にして伝えたいという氏の気持ちがまっすぐに通っているからなのだと思います。

私はこの歌を、はじめて参加した氏のライブで聴いて、そのしんみりとした叙情に打たれたのでした。そして歌のアルバムを手にして、やはりいい歌であると思っています。もし氏の許しを得ることができたら、私もこの歌を歌いたいと思う。私がこれまで繰り返してきた別れと出会いを懐かしみ惜しむようにして『忘れません』を歌うことができたら、私はどんなになぐさめられることであろうかと思います。

『忘れません』、ええ、忘れません。あなたのことは忘れません。そうした思いは私の胸にもやっぱりあるのです。

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