2006年5月14日日曜日

天子様が来る!

 天子(てんこ)様は神秘のインスタント食品の精 湯気とともに現れて願い事をひとつだけ叶えてくれるよ このフレーズは実に私のお気に入りでありまして、そもそもインスタント食品の精ってなんですか!? 気概のあるんだかないんだかよくわからない脱力設定に、私はすっかり虜になってしまったのでありますが、もちろん面白いのは設定だけじゃなくて漫画本編もかなりのもの。インスタント麺の紙蓋をめくったらあらわれる天子様のキュートさも素晴らしければ、そのとぼけた仕事ぶりも素晴らしく、あはは、そりゃないよー、というような脱力系笑いが疲れた現代人の心を潤してくれます。ちょっといいすぎかな? けど、ナンセンスの裏に人生の悲しさがちょっと忍んでて、私にはとても好きな感じなのでありますよ。

しっかし、地味な表紙ですよね。こないだ紹介しました『いつも心に太陽新聞』に勝るとも劣らない地味っぷりで、この二大地味表紙を連続させなかったのは私の不徳のいたすところというほかないですね。

しかし一見地味で、中を見てもやっぱり地味なこの漫画、この地味さゆえの面白み、おかしみというのが追求されていて、本当にいい味が出ていると思います。どんな願いだって叶えられるほぼ万能の天子様を前にしてるというのに、素っとぼけた願いを連発する登場人物たちの善良さ。何度も天子様に会って、何度も願いを託しているというのに、うまくことが回らない準レギュラーたちの悲しみ。人間の無力ゆえに悲しくおかしいところがよく出てるよなあと、一種チャーリー・ブラウンの漫画『ピーナッツ』に通じるものがあると思うのです。

でもまあ、そんな大げさに考えて読むような漫画じゃないですね。天子様が出てきて、どんな素っとぼけた願いの叶え方をするのか、その意外性や脱力っぷりに笑うというのが基本で、それでもし天子様が自分のところにあらわれたら、みたいなことを夢想して楽しんだら面白いかも知れない。

というわけで、今月号(2006年6月号)の『まんがタイム』には、天子様が読者の願いを叶えますというスペシャル版が載っていたのですが、それを見てみたらきっと天子様にお願いするのはやめておこうと思えること請け合い、けどよく真っ向からの願いをいなしておかしみに変えるものだと感心するやら笑うやら、でした。

とにかく肩透かしのうまさが利いている漫画だから、読めば肩の力も抜けるかも知れません。老若男女問わず万人に勧められそうな懐の広い漫画ですが、私みたいなやつが読むのにいい漫画じゃないかななんて思います。

  • 安堂友子『天子様が来る!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社.2006年。
  • 以下続刊

引用

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