2006年5月19日金曜日

だからパパには敵わない

私は遠藤淑子には詳しくないのだけれど、この漫画にはなにかびびっとくるものを感じて、ほぼ衝動買いしてしまったのでした。ほぼというのはなにかというと、見つけたその日には手持ちがなくて、お金を用意して翌日買ったということ。大抵のものなら、一日たつと別にいらなくなるんですが、この漫画に関しては、一日たっても欲しい、読みたいという気持ちが消えませんでした。そして購入、読んでみて、やっぱり買ってよかったと思いました。

なにがいいかというと、血の繋がらない娘と父の微妙な距離かも知れません。父は娘を溺愛していて、娘はというと父に素直にはなれないのだけれども、その割りにはどことなく甘えていて、そのどちらもがはっきりとは明らかにしようとしない心のうちが折りにふわりと浮き上がってくる。そのやわらかな描かれかた、それがすごく素敵であるなというように思ったのでした。

どの話もストーリーが淡々としていて、結構書く人が書いたらドラマチックにもなりそうな筋なのに、淡々として地味で、まるで他人事をなぞるみたいによそよそしいのですが、けれどそうした点があまり気にならないというのは、そもそもが筋を読ませる類いの漫画ではないからだと思います。『だからパパには敵わない』そして収録の他短編にしても、読ませたいのはヒロインとヒロインに繋がる人の心の揺れであるとか、思いの滴であるとか、そういうナイーブで柔らかいところなのだとわかります。いつもは反抗的な娘が父に見せる素直な表情、いつもはどことなく茶化してはしゃいでいる父の見せる真摯な面立ち。ずっとどこかにギャグを交えてきたコメディからシリアスに転換するポイントが用意されていて、私たち読者も自然にそのポイントを通過して、今までの動揺の奥に隠されていた穏やかで落ち着いた気持ちの確かに繋がるところを目撃するのです。

派手さはないけど、ドラマチックな演出も弱いけど、そのかわりに心の安らぎを得られるような漫画であると思います。そして多分、私はこういう漫画が好きです。いつの間にか心が漫画に寄り添おうとしている、そういう思いのする話が好きなのだと思います。

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