2006年6月26日月曜日

卒業アルバム委員長の窓

 写真を趣味にしている人はたくさんあって、それぞれが抱く写真への思いはさまざまです。写真という、瞬間を切り取るそのものが好きな人。カメラという精密にして精巧な機械に魅せられた人。被写体が好きな人もいるだろうし、写真を撮る自分が好きな人もいて、これは十人十色といっても差し支えないのではないかと思います。私自身、写真を撮りますが、それはなぜかといわれると、一口にはいえないものがあります。流れる時間、移ろう季節の中に暮らして、一向にかえりみることのなかった自身を反省してカメラを手にした、 — 刻一刻とありようを変える世界を感じていたかったのだといえば、あまりに格好付けすぎだと思います。けれど、一番最初にカメラを手にするきっかけとなった瞬間ははっきりと覚えています。あの朝、電車の窓から見た風景、その風景を見つめていたいと思った。その風景を見つめる目になりたかった。そうした思いが募って、私ははじめてのカメラを買ったのでした。

『委員長お手をどうぞ』は「卒業アルバム委員長の窓」のヒロイン、実田花乃([みのるた]じゃなくて[じった]です、でもミノルタだよね)のスタンスというのは、もしかしたら私に似てるのかも知れないなあと、この話を読むたびにどきりとして、嬉しくなったりどぎまぎしたりと大変です。なにがこんなにもドキドキさせるんだろう。それは多分、一歩世界から距離を置いているようかのようにクールである花乃が隠している情熱、高揚が伝わるから、だと思います。

花乃はいいます。

わたし
みんながどんな風に世界をみているのか
ずっと知りたいと思ってた

写真というのは本当に不思議なものであると思います。その時、世界に向けた思いをそのまま凝縮するようにして結実する写真は、その思いをありのままに残すのです。あの止まった画面に、強く生き生きと結晶する誰かの思い。私は写真を撮り、その写真を見る人は私の思いを感じてくれるだろうか。そして、あなたの写真を通して、私は他でもないあなたの思いを知りたいと思う。写真にはそうした色合いが確かにあるのです。

私は花乃の言葉に、私が思ってきたことがあからさまにされているのを見て、きっとこの人は私の思いを受け取ってくれる、そして私はこの人の思いを受け止めたいとそのように感じたのです。そしてドキドキと胸が高鳴る — 。写真とは、そうした交歓を確かに媒介します。

そして、牧名二子の存在が秀逸でした。花乃が世界を見つめる視線として写真に関わるのだとすれば、二子は対象への思いゆえに写真に関わったのではないかと思うのです。花乃の思いが世界を捉え尽くしたいというものであらば、二子のそれはあなたに触れるほどに近づきたいという思い。ここに写真の究極的な思いの両極が出会って、響きあうかのように感じられて、そして私はこの一連のシーンの描き方にじんとする。そう、写真というのは究極的には愛だと思うのです。あなたへの愛、世界への愛。その立つ位置、スタート地点は違ったとしても、きっとゴールはおんなじなのではないかと、そのように感じさせたこの漫画は、限られた紙幅でもって写真の本質、人の思いのありようを充分に描いてしまった — 、とそんな風に私は思います。

  • 山名沢湖「卒業アルバム委員長の窓」,『委員長お手をどうぞ』第2巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2005年。

引用

  • 山名沢湖「卒業アルバム委員長の窓」,『委員長お手をどうぞ』第2巻 (東京:双葉社,2005年),148頁。

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