2006年9月14日木曜日

侵蝕プラトニック

 きづきあきらにはまっております。きっかけは『ヨイコノミライ』、書店に並んでいるのを見て、買おうかどうか迷った末に結局買ってしまって、そのぐいぐいと引きつける力にあらがえないままに『モン・スール』を買い、あれを買い、これを買いで、ああもう、こんなことならもっと早くに買ってればよかった。きづきあきらについてはほとんどなんにも知らなかったくせに、なんとなくというような漠然とした苦手意識から遠ざけていた。本当に悔やまれますね。でも、遅くともこの人の描く漫画のよさに気付くことのできて本当によかったと思います。

『侵食プラトニック』は短編集です。最初に『シロクロ』が三話続いて、後は全部読み切り。そのどれもが微妙に重いテーマを扱って、けど最後まで重いままにしないというところに救いがあって、助かりました。だって『シロクロ』は、まま優柔不断なラブコメ主人公に対するアンチテーゼといっていいような漫画で、ほらよくあるでしょう、何人かの女の子に思いを寄せられながら、また自分もその相手を好きであると自覚しながら、はっきりと誰を選ぶこともせずすべてを曖昧のままに先延ばしすることで、ぬるい恋愛をむさぼるというような漫画。都合のよい展開が次々起こり、けど最後には正ヒロインを選んでめでたしめでたし。そうした形式に対する徹底的なパロディと批判が漫画一杯につまっているようで、面白かったです。けど、やっぱり厳しいよね。でも、それでも最後の最後、はっきりと自分のやっている残酷さを突きつけられた主人公に救いが提示されたところに、きづきあきらの優しさというのを感じるのでした。

思えば、『侵食プラトニック』に収録されている漫画は優しいのですね。いや、描かれていることは決して優しいとはいえないものもあるんですが、けどそこに優しさが見え隠れする。傷つきやすい自分を守らんがために頑なを演じたり、あるいは決断をためらったりという、そういう誰しもが持っている弱さを追いつめることで、逆に自身の弱い部分をまっすぐに受け止めさせる。そういうプロセスが描かれていると思うのです。そして弱い自分を乗り越えようとする、否定するのではなく、しっかりと抱きとめて、なお越えていこうとする、そういう健やかさが見られると思うのです。ここが、私は、きづきあきらの優しさであると思います。

読めば、なんだか泣けてくる漫画です。あの独特の硬質なタッチが、心の底に印象をはっきりと残して、その跡がなんだかほのかに豊かになっているというような、少し泣いてがんばろうと思えるような、そんな漫画であると思います。登場人物同様、自分の弱さゆえにしり込みすることの多い私には、すごく厳しく、また優しく触れてくる漫画であると思います。

  • きづきあきら『侵蝕プラトニック』(ガムコミックスプラス) 東京:ワニブックス,2006年。

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