2007年5月4日金曜日

七時間目の怪談授業

 大阪大学にて教鞭をとる物理学者菊池誠の公開するkikulog。このBlogは、今この日本に蔓延する偽科学に対して警鐘を鳴らし、批判する、そうした場として機能しているのですが、ある日一冊の青い鳥文庫が取り上げられました。それは藤野恵美『七時間目のUFO研究』。私はこの本を、仕事帰りに寄る書店に見付けながら、中まで確認するにはいたらず、昔はよく読んだ児童文学ですが、最近はずいぶんと疎遠になっていて開拓するまでにはいかないんですよね。本当なら見過ごされるままに見逃されていたこの本ですが、けれどkikulogに紹介されたおかげで手に取ることができました。これは、本当によかった。いいタイミングでのご紹介、本当にありがたいと思います。

『七時間目のUFO研究』は、七時間目シリーズの第三作目であるということで、私は基本的にシリーズものは最初から読むことにしていますから、早速買いました、第一作『七時間目の怪談授業』。ある日、携帯電話に届いたチェーンメール。九日以内に三人に同じ文面で送らないと不幸になるという、典型的な不幸の手紙であるのですが、この本はこうしたお化け、幽霊、呪いといった怪奇現象をあつかって、けれどそれをおどろおどろしくしないというところに面白さのある、いうならば異色、非常に知的な雰囲気のあるいい物語を展開させていて、すっかり気に入ってしまいました。

基本的にはオカルト的ないろいろに対し懐疑的態度でもって臨むという本でありますから、どうしてもお化け、幽霊、そういったものを否定するという前提で話は進んでいきます。けど子供も大人も、人間っていうのは怪奇、怪異が好きという性質があるようで、だって自分の子供時分を思い出したらそうですもの。夏休みには『あなたの知らない世界』をわいわいいいながら見て、学校にいったらいったで心霊写真本で盛り上がってみたり、怪談本を回し読みしたりと、こういうことってあるでしょう。だから、この本は下手したらそういう興味に対し冷や水浴びせることにもなりかねず、としたら子供はそんな話を面白いと思うものなんでしょうか。

きっと、面白いだろうと思います。携帯電話に不幸のメールが届くという、実際自分の身にも起こりうる事件を発端に持ってきて、そして先生に没収された携帯を取り戻すためには、怪談で先生を怖がらせなければいけないという、そういう条件が提示されて、どうです、このスリリングな構成。不幸のメールの突きつける期限である九日の間、土日を含むので実際にはもっと少ない日数となりますが、授業の終わった後、すなわち七時間目にとっておきの怪談を披露する。そこには、メールを受けた当人であるはるかにその親友の女の子、怪談好きの少年から、憧れの君、自称霊感少女まで参加して、これでなにも起こらないわけがないというシチュエーション。実際、この下手をすれば地味になりかねず、また説教くさくなりそうな題材は、友情あり恋心ありの物語に膨らまされていて、この本来の対象層である小学生、あるいは中学生は、スリルにドキドキ、あるいはわくわくとしながら読み進むのではないかなあと、そんな感じであるのです。

けど、私はもうたいがいおっさんですから、その構成の巧みさに嬉しくなったりはするものの、スリリングというほどには感じず、だってね、もうおっさんですから。でも、児童文学らしいシンプルながらも凝った筋立て、伏線がうまく処理されている様なんかには、やるなあっていう気になって、面白い、いい本でした。子供たちのキャラクターも、わかりやすい類型を用いながら、けど生き生きとしていてよい感じ。妙に弱設定のはるかは可愛くて仕方がないし、かと思えば本作随一のリアリスト、クールさの光るはるかの姉なんかもいい味があるし、あるいは意外に策略家だったあの人の真実。これにはしびれましたね。ほんと、児童文学というのは昔も今も名作の森であることよと思える良作でありました。

子供にとっては、怪談が読めて、大きな物語も楽しめて、そして下手すりゃ夜が怖くなっちゃいかねない可能性をきれいにぬぐい取ってくれる、実に気の利いたいい本だよなと思います(子供の頃、怪談とか読んだら、こんなことねえよと思いながらも、どこか怖かったりしませんでしたか?)。安心安全、一粒で二度も三度もおいしい。ほんとよい構成だわと思います。NHKあたりがドラマに仕立ててくれないかなあ。そしたら絶対見るのに、って思います。

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