2007年6月26日火曜日

ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド

  内容も知らず買ってみて、これはあたりだったと大いに喜んだ『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』。本日、第3巻が出ているのを見付けたので、当然のごとく買ったのですが、いやそしたら参りました。面白いんですよ。第1巻第2巻の時点でもかなりきてると思いましたが、第3巻はそれ以上かも知れません。本当、第2巻までは状況説明及びプロローグだったのか? と思えるくらいに、ドラマが動いてる。いうならば、これまでに語られたいろいろ、設定までを含めたもろもろに肉がつきはじめたといった様子。しかしこの第3巻時点ではまだ端緒を開いたに過ぎんのでしょう。いまだ踏み込まれずほのめかされるばかりの核心に、この先の盛り上がりのほどを予感して、けれど焦って先を知りたくはない。この今のスリルを味わっていたいと思わせる充実が魅惑的です。

しかし、本当に思った以上でした。主要登場人物はヴァンパイアにワーウルフといったこの世ならぬものたちであり、実際劇中においても尋常ならざる超越したものとして描かれているというのに、それがこんなにも揺れ動きやすい心に戸惑いを見せるなんて思いもしませんでした。正直、見誤ってたと思います。主人公はヴァンパイアの王ミナに忠誠を誓うアキラ少年。いまだ未熟で発展途上にある彼が揺れ動くのならわからんでもないところが、永遠を生きる不死のものたちも同じく揺れ、よすがを求めさまようかと思えば、執着の果てに心を散らしていく。その描写が妙に生々しくて、ああこれら性状はヴァンパイアという不死者ゆえの空しさ、悲しさに起因するものとして描かれてはいるけれど、その根底にある遊離感、虚無感は、今現在を生きる我々にしても変わりないという思いを私はどうしてもぬぐい去ることができず、だからミナ姫殿下をはじめとする永遠でありながら刹那でもある彼らに共感を感じずにはおられないのです。

こうした共感は、超越者の中の超越者であるミナ姫殿下のキャラクターの打ち出し方がゆえかもしれません。ミナはヴァンパイアの王であるゆえに、ヴァンパイアたちの中にあっては毅然として孤高であり続けなければならない宿命を背負っており、しかしならば彼女の揺れる心はどこに漂着するというのか — 。ここに、アキラであり由紀の存在が映えてきます。有限である人間ごときにヴァンパイアが思いをかけることなどあるのかという根底の疑問を、彼らがヴァンパイアでないということをもって鮮やかにクリアして、この異質なものたちの間に対等あるいは特別な関係もなりたつのだと納得させてしまった。そしてこの関係が前提にあるからこそ、物語の主軸に陰謀を巡るきな臭い攻防戦を展開しながら、その側面に学園における友情や恋愛といったセンチメンタルなドラマを描くことができるのでしょう。これら地続きにして対照的なエピソードは、互いに互いを補強して、クライマックスを支えさらに押し上げる力ともなれば、ひとつの山を越えて訪れる決着にとうとうとした安らかさを与えるよりどころともなって、この漫画をかたちづくるための要素として不可欠にして不可分のものとなっています。そしてあるいは、ちょっと切なくてやり切れない、けれど決して軽く流されたりはしない、死や別れをともなうエピソードに多少の救いめいたもの — 私たちが痛ましさをもって受け止めるためのよすがともなってくれるのだと思います。

蛇足

単行本巻末に収録される「ダンス with the ヴァンパイアメイド」は、わりかしシリアス強めでときに殺伐とした展開も見せる本編のすさまじさを埋め合わせるかのようにほのぼのとして、これ読むとなんだかほっとしますよ。まったく本編に関係しない話でもないからなおさら。こうしたちょっとした遊びが後味を整えてくれるところ、私はすごく気に入っています。、百歩譲ってもあれはダブルリーチどまりだと思いますよ、私は!

蛇足2

腐女子は多神教。実にこれ、神表現だと思います。

引用

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