2007年8月7日火曜日

さゆリン

  さゆリン』が完結、最後の単行本も発売されまして、ああ本当に終わっちゃったんだなあという実感がひしひしと押し寄せてきています。女子高生サユリとその友人たちが、特に盛り上がるでもなく、淡々とおかしなこと言い合いながら過ごす日常風景の面白い漫画でした。群を抜いて変わり者のサユリが可愛くて、高品勇太のこと好きだよねって誰もが、読んでる人間もそうだし、それに多分登場人物たちもそうなんだけど、気付いていまして、勇太も勇太でサユリのことを嫌いじゃないみたいなんだけど、別に付き合ってるわけでなく、またイズミといい雰囲気になったりしたりするとこもあって、そういうもどかしさというかほほ笑ましい恋模様? 楽しかったなあと思います。けど彼らの恋ははっきりと色づくことなく完結して、だからやっぱりこれは恋愛色にほのかに染まりながらも、その実質は友達のそれだったのかなって思います。

読み終えてみれば、なんかノスタルジーの感じられる漫画だったように思います。サユリをはじめ彼らは、高校時代をまさに今として過ごしているというのに、そこにはどこか自分の来し方懐かしむような視線のあるようで、多分これ、作者の傾向もあるんじゃないかと思うんですが、ほらたまにこんな普通の休みの日も… いつか思い出になっていくんだろうか…みたいな台詞が出てきたりするでしょう? もちろんこれ、次のギャグを引き立てるためのものであるわけですけど、こういう感じの視点というか距離感というかが、まれに感じられることってあるって思えましてね、もしかしたら自分にもこんな時代があったんじゃないかなあなんて思えてきて、いやけど高品勇太のような青春はなかった。彼は、彼はなんのかんのいっても幸せ者だと思います。

『さゆリン』という漫画は、そのキャラクターの愛らしさが非常によく機能していたと思うのです。背丈小さくて、見た目美少女なんだけど、無茶な言動が光るサユリが可愛いのは当然として、振り回されたり、またたまには逆襲したりもするイズミやモトコ、後輩のリナちゃんにしても、みんないい性格してたなと思います。素直でストレートなんだけど、ちょびっと思い切れないみたいなところも見せて、そういうところはほほ笑ましさを通り越して、痛撃食らわされたみたいに効いて……、よかったですね。そうした彼らが、微妙な関係をふらふらと維持させながら、進めるでもなく退くでもなく、ましてや壊れることなんて微塵も感じさせず、楽しそうにやってる。私ら読者は、高品の思うところを引き受けるつもりで読んでたのかなあ。そうした楽しさの輪の中にあって、彼女らの存在を自分自身が感じるようにして、思っていたのかなあ。わかんないけど、けれど私はその高品勇太でさえも可愛かったと思っています。しょうもないこといって面白がっていた昔思い出すように、けれど自分自身には起こり得なかったことを今まさに体験するように、『さゆリン』を読んでいたように思います。

というわけで、『さゆリン』完結。長すぎず、短すぎもせず、いい長さで終えられたのではないかと思います。最後まで、いつものように、きっちりといい味出してた。いい塩梅だったと思います。

  • 弓長九天『さゆリン』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2004年。
  • 弓長九天『さゆリン』第2巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2005年。
  • 弓長九天『さゆリン』第3巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2006年。
  • 弓長九天『さゆリン』第4巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2007年。

引用

  • 弓長九天『さゆリン』第4巻 (東京:芳文社,2005年),50頁。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

1巻目ですけど興味をそそられて、買って読んで見ましたよ。読み始めはちょっとはずしてんのかなあ?って感じだったんですが、絶妙な良い味出してますよね。

この作者の方のナチュラルなとこなんじゃないかと思ったんですが、狙ってやってるんだったらすごい才能?とか思って見たり...。

matsuyuki さんのコメント...

お読みとのこと、気に入っていただけました? ようでひとまずは安心です。

作者に関しては、多分狙ってやってるんだよ思いますよ。『さゆリン』期間限定サイトというサイトがあるんですが、期間限定といってもう何年もやってるうえに、多分『さゆリン』終わってもこのまま続くんじゃないかと思うのですが、ここの日記がすごい。これ見るかぎり、漫画にあらわれる不思議な感じってのは、確信的に作り込まれたものなんだろうなあなんて思います。