2007年8月10日金曜日

かりあげクン

  私と四コマ漫画について語ろうというなら、絶対に外していけない作家がいます。それは誰かといいますと — 、植田まさしなんですね。植田まさしを御存じの方は少なくないと思うのですが、ほら四コマ漫画なんて普段読まないけど、植田まさしなら知ってるっていう人は結構いらっしゃいますから。有名どころは『コボちゃん』でしょうかね。なんてったって、アニメになっています。けどアニメといえば忘れちゃならない、実は『かりあげクン』だってアニメになってるんですよ。私が小学生の頃だったかな、『かりあげクン』がアニメになるってんでわくわくしながら放送を待って、そして幻滅。ありゃあひどかったよ。なんかどたばたしたいやな感じのアニメになってて、原作の地味ながらも笑いを押さえることのできない絶妙のおかしみが感じられなかったんですね。アニメになったら原作のよさが台無しなんてのは、今も昔もよく聞く話ですけど、『かりあげクン』は間違いなくその一例であろうなあと、今から振り返っても思います。

『かりあげクン』は、唯一うちで買っていた植田まさし漫画であったのでした。父がですね、会社で友人からか四コマの単行本を借りてかえってきたことがありまして、『フリテンくん』とか『キップくん』とか、とにかく主人公の名前(?)にくんちゃんを付けただけの、ひねりもなにもないタイトルが特徴のジャンル、くんちゃん漫画などといって揶揄されたりもするらしいですが、こと植田まさしに関しては一味も二味も違ってました。面白いのですよ。基本的にはナンセンスなギャグコメディで、『フリテンくん』あたりはその名の通り麻雀がテーマ、『キップくん』は鉄道マンですね。それぞれのシチュエーションで、悪ふざけする主人公がべらぼうに面白かったんです。とにかく笑ってしまう。『フリテンくん』なんて、麻雀知らない子供にはわからないネタが多いんですが、それこそ女性に体で払ってもらおうかなんて、当時の小学生にはかなりハードルの高いネタであったわけですが、わからないなりに読んでましたものね。女性の垂れ下がった乳房が千点棒に見えるというその落ちにしても、麻雀やりませんでしたからね、全然わからなかったけど、それでも読むのが苦にならなかった。それくらいに引きつけるネタの強さがあったってことだと思います。

子供にわかりやすく楽しみやすいといえば、やっぱり『かりあげクン』は特筆ものじゃないかなと思うんですね。かりあげといっても、理髪店ものじゃありません。独特の美意識でかりあげを貫く、かりあげ正太が主人公。普通のオフィス四コマなんですが、この男、とにかく悪戯ばっかりしてるんですよね。社長の訓示で、人のいやがることを率先してやりなさいといわれて、社長の仰せのままにと、毛虫使って女子社員を脅かしたりする、そういう男なんですが、不思議と憎めないキャラなのが植田まさしのよさなんです。本当に、なんだこの男、みたいな風にならない。とぼけていい加減に見せて、ちゃらんぽらん(ほんにゃらっていうべきなの?)な男だけど、それが許されるのは漫画としての質の高さゆえだったのかな。とにかく笑っちゃうんですよ。家族に心配されるほど声出して笑った。それくらいの爆発力あるギャグだったと思うんです。

最初は借りて読んでた『かりあげクン』でしたが、後に買うようになって、このときは父親をだまくらかして買わせてたんじゃなかったかな。そうしたら小学五年だったかな、六年だったかなの地蔵盆のくじで『かりあげクン』第8巻を引いちゃいましてね、おーまい、これ持ってるよなんていったのも懐かしい思い出です。

他にも、中学に入って塾に通うようになって、隣に座ってるやつとかりあげジョークを言いあうのが楽しかったっけ。鉛筆と消しゴムをくっつけたのがヒット商品になった、発想の転換ってやつですね、で、かりあげがほうきにちり取り付けて、使いにくいんだなんてうそぶいてる。これが我々の一等のお気に入りで、こうしたお気に入りのギャグを、ぽろっと耳元でささやくようにして笑わせるのですよ。楽しかった。塾行って遊ぶなよみたいな話ですが、でもこういうのも思い出じゃないですか。あの隣り座ってたやつ、名前忘れちゃったけど、元気にしてるかなあ。

途中、作者のパワーダウンを感じることがあって、そこで『かりあげクン』の講読は一旦ストップしました。その後、『まんがタイムラブリー』を講読するようになったのですが、けれど植田まさしのことは忘れていて、しかしじきでしたね。講読する四コマ誌が増えて、そうしたら植田まさしに再会、今も続いている『かりあげクン』に驚いて、そしてその雰囲気の変わってないことにも驚いて、実際、植田まさしは面白いと思います。かなりお歳なんじゃないかなあ。『かりあげクン』なんて二十年以上続いていて、けれどまだまだいけそうな雰囲気ただよわせていて、これは本当にすごいことですよ。もともと多作の作家で、植田まさしはネタ製造機を持ってるなんていわれるほどにばんばん描いていた人ですが、その底力は今もなお健在で、ほんとほとほとすごいやと感嘆するほど。実際、超人的だという気さえして、四コマというジャンルにおいても、また私の四コマ遍歴においても、決して外すことのできないビッグネーム、それが植田まさしという人であります。

  • 植田まさし『かりあげクン』第1巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1981年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第2巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1981年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第3巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1982年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第4巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1982年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第5巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1983年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第6巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1983年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第7巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1984年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第8巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1985年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第9巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1986年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第10巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1986年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第11巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1986年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第12巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1987年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第13巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1988年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第14巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1988年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第15巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1989年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第16巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1990年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第17巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1990年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第18巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1991年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第19巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1991年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第20巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1992年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第21巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1993年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第22巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1993年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第23巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1994年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第24巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1995年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第25巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1995年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第26巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1996年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第27巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1997年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第28巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1997年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第29巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1998年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第30巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1999年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第31巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,1999年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第32巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2000年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第33巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2000年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第34巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2001年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第35巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2002年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第36巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2002年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第37巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2003年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第38巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2004年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第39巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2005年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第40巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2005年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第41巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2006年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第42巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2006年。
  • 植田まさし『かりあげクン』第43巻 (アクション・コミックス) 東京:双葉社,2007年。
  • 以下続刊

0 件のコメント: