2007年8月27日月曜日

アットホーム・ロマンス

 先月予告しましたとおり、8月27日発売のKRコミックス『アットホーム・ロマンス』を購入して参りました。数年前、この日本に吹き荒れた妹萌えの揺り返しとでもいうのか、昨今なぜだか姉が大人気。『あねちっくセンセーション』だけじゃない。漫画、ゲームといったジャンルにおいて、姉を題材としたものが次々リリースされていっているのです。と、ここで真打ち登場かも知れません。風華チルヲの『アットホーム・ロマンス』は、主人公こそはマザコンですが、ブラコンの姉と過ごす日々の中で、姉萌えに目覚めるのか? どうなのか? 母への思慕と姉への困惑との間に揺れ動きつつ変わっていく、少年の心の旅路を描いた激動の物語が始まります。

みたいにいっちゃうとちょっと言い過ぎみたいな感じもしますが、といっても、まったく嘘というわけではないんです。主人公は極度のマザコン、姉は極度のブラコン、父は父で酒に溺れギャンブルに溺れるろくでなし。息子と夫の状況見るに見かねて、母が出奔するところから物語はスタートするのですが、この姉が実にとんでもない。弟のベッドに侵入する、風呂にだって突入する。それもこれも母と会えないがために禁断症状に陥った弟をはげまし、元気づけたい一心でのことなのですが、最初の頃はそれこそ読んでいてちょっと退くほど。あまりにも過激な愛情表現の一方通行を見せられて、こりゃあ正直かなわないなあなんて思っていたのですが、けれど、次第にこの姉を応援したくなってくるのはなぜかということなんですね。姉だけじゃない。主人公からして過剰なコンプレックスに突き動かされている、さらにいえば登場人物のほとんど全員がそうした抑圧持ち、けどそこに嫌悪よりも人の情のいじらしさみたいなものが感じられるというのが、『アットホーム・ロマンス』のよさなんじゃないかと思うのです。

確かに、主人公の姉は強烈に弟好きで、やることなすこと善意の押し売りに近い、正直かなり迷惑なお姉さんなんですが、自分の内心の要請に素直でありながら、弟のために退くべきかと葛藤する、冷静と暴走の合間にせめぎあう気持ちが見えるのがいじらしいのだと思うのです。そもそもが、この漫画に出てくる人たちはみんなそうで、心のどこかに弱い部分をもっていて、それがママへの過剰な思慕や、弟への依存としてあらわれて、けれど彼らはその弱い部分をそのままにはしたくないと思っている。前に向かって歩こうと、捨てるに捨てきれない感情を、あえて押しとどめて前へ向かおうとする、そこですよ。私はなんだかほろりとさせられるんです。完全に依存して、自分の思いのままに、沈み込んでしまうのがきっと一番楽なんだけど、またその楽さを選びたいと、選ぼうとする自分に気付いているんだけど、それでもときに顔を上げて、進まなきゃと思う — 。この漫画は、マザコンやシスコン、ブラコンといった、肉親に対する過剰な情愛を題材にしているんだけれど、その先には人間の持つ弱さがひっそりと隠れています。冗談やなんかじゃなくて、わりと真面目にいっています。執着や依存、現状に立ち止まるばかりか後退さえしかねない弱さが描かれている。けれどそこには、温かく安穏と過ごすことのできる繭を破ろうという気持ちが、強さが揺らぎながらも同居しているから、ああ、これってすごく人間らしいよねと、あんなにも過剰にゆがんだ愛をあらわにする彼らに、普遍的なものを見てしまうのです。

けど、人間はそれでも弱いから、簡単にはいかなくて、決意もなかなか成就するには至らないんだけど、そうした弱さを支え合っているのがまた過剰な肉親間の愛というのが、この漫画の救われないようで、けれど一番の救いであるところなんじゃないかなと思ったりもして、主人公竜太朗はどうしようもないマザコンで、ママ以外は視界に入らないんだー、みたいなこという困ったボーイだけど、けどそれでも姉のことが好きなんですよね。姉も、竜太朗にゾッコンLOVEなんだけど、姉としてどうすればいいか考えて、こういうお互いになにか助け合いたいと思っている、そんな関係がいいじゃないですか。ロマンスかどうかは知らないけれど、アットホーム分は充分以上に感じられる漫画で、それは主人公一家を飛び越えて、友人をも包み込むくらいに大きなアットホームなんだと思います。

蛇足

姉の中から選ぶのだったら京子姉ですが、実際には長瀬奈津子がお気に入りです。

蛇足2

この漫画の中で自分に一番似ているのは……、それは親父だっ! 頑張りたいのに頑張れないのはなんでだろう。明日やる!! 明日やるから!!が口癖になったのはいつからだろう……。

程よく侘びしさが身にしみたところで、皆様ごきげんよう!

引用

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