2007年8月31日金曜日

かわいいあなた

 夜空の王子と朝焼けの姫』を買いにいったその日、その装幀の持つ雰囲気にひかれるままに購入したのが『かわいいあなた』でした。イラストが醸し出す華やかさ、暖かさ、胸に染み入るような感傷も甘くて、これは読みたいと思わせる表紙でありましたよ。それに、かわいいあなたというシンプルにして強い表現。その強さは柔軟でしなやかで、それがちょっとつたない感じの文字でつづられていて、そこがまたうまいと思う。気取らない、心からの、手のひらの上にほのかに生じるような、そんな思いをあなたに伝えたいのよといいたげなるかのようで、これは本当にいい表紙だと思います。

そして読んでみて、またよかった。私は、巻頭の『Maple Love』でもう撃沈。これ、大学生の女子二人の話なんだけど、思われる娘も思う娘も、どっちもが可愛いんですよ。どうですかこれって聞き返したくなるくらいに可愛い。どちらの娘も常識や普通のカテゴリからちょいと外れ気味であるのですが、思われ側が天然でマイペースなら、思い側はしゃっきりとしてしたたかで、けどよ、けどよ、それが最後でああなっちゃうのね。

自分で確かめたいという人は、ここから先は読む必要ないです。つまりちょっとネタバレ。

見た目しゃんとした宮路が抱えていた不安や弱さが一気にあらわにされるラスト、ちょっと泣いちゃったよ。悲しいとかじゃなくてさ、いじらしさに泣いたんです。ああ、この人のちょっと攻撃的とも思える普段の態度は、こうした面を隠すためのものだったんだなって思って、自信なんてないし、そもそも報われない思いだって自分が一番わかってる — 。そんな女の子だったんだなあって、だからあそこでかえちゃんが選んだ回答は、読んでる私にしてもすごく仕合せな気持ちになれるもので、ほだされたね、ほだされましたよ。

この一撃で乙ひよりは全購入対象に決定されたのですが……、この人、これが最初の単行本なんですね。驚きました。ベテランかと思っていたのです。百合的舞台、お約束を充分に踏みながら自分なりの世界を広げている。絵も、テキストも、すべてが過不足なく表現を支えている。そんな感じだものだから、もうほんと。

百合もののフォーマットというべきか、思いが成就するあるいは破れるまでの過程がメインで、うまくいくにせよ駄目にせよ、ラストに向かうまでの心の動きが、すごく細やかで、表に表現されているものと内心のギャップも含めて、すごく素敵なのです。強気な少女は強気の、弱気な少女は弱気の、それぞれの輝きがあるなと思ったんです。凛々しさ、いじらしさ、けなげさ、素直さ、一生懸命な様も嫉妬に苦しむつらさも、そのすべてが心に触れてくるように思えて鮮やか。鮮やかといっても原色のそれでなく、やわらかな光に似た、暖かく心地いいものであったと思うのです。だから、読んでいてとても仕合せ気分。最後に恋の成就するものならなおさら。願わくばこの恋の行く先を、なんて思うんですが、そこがあえて語られないところに、こうしたジャンルのよさがあるのだと思うから、私はこのまま余韻に浸って溶けてしまいたいと思います。

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