2007年11月6日火曜日

FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE

 以前、『アーマード・コア』のコミック化に対して、これが『アーマード・コア』ではなく『フロントミッション』だったらよかったかも知れないなんていっていました。あまりにストイックであるACではなく、FMならこうした成長物語も充分に内包できるだけの膨らみがあるんじゃないかって、そういうことをいいたかったわけです。そして、多分それはあながち見込み違いではなくて、先日見付けた『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』、これが実によくできているんですが、『フロントミッション』というシミュレーションゲームの漫画化にして、ただの漫画化ではないなと、そんな風に思わせるものであったのです。FMの世界、設定、歴史もろもろを、ただ利用するだけでなくてよく膨らませている。ああ、入魂であるなあと、そんなことを思わせる出来でありました。

『フロントミッション』はゲームとしてはシミュレーションでありますが、別の切り口から見ればロボットものであります。戦場にて巨大なロボットを駆り、敵部隊を打ち破る — 。そうした性格を持つFMを漫画化するにあたり、あえて戦争の当事者を主役にしないというのはちょっとした驚きで、FM、懐深いなあ、というのが正直な感想でした。主人公はハフマン島に派遣された特派員。ハフマン島とは、二大連合体がぶつかり緊張高まる、まさに火薬庫といえる土地であり、そして紛争の火ぶたが切って落とされた — 。これって、第1作のシチュエーションそのままじゃないですか。そうなんですよ、本編では語られなかったバックグラウンド、社会情勢というものをここに描いて、ありそう! というリアルさをぷんぷんさせているのです。そして、そのリアルさというものは、イラクにおいておこなわれた戦争を想起させ、平和な状況に浸って安穏と暮らしている私たちに対する皮肉、当事者となりえないことを知っている人間の傲慢さをあげつらうんですね。うまい、うまいわ。

戦争を、巻き込まれたものの視点から描こうとした「戦場の透明人間」、兵士として戦場に赴く男を描いた「防人の詩」、どちらも独特の雰囲気、ありそうな感じを匂わせて、漫画としてすごくよくできていると思いました。ロボット戦を描きながら、ともすると抜け落ちてしまいがちな、その背面にある人間を描こうとしていて、そしてそれが嘘っぽくならない位置に落ち着いているのです。ただ、そうした描写がうまいために、どうしてもこもらない現実味、アクチュアリティの薄さが際立ってしまうのが残念で、惜しいですね。けど、この漫画に真実味がこもってしまったら、正直きつくて読んでられなくなると思う。だから現状のままで、エンタテイメントにとどまってるほうがいいのかなと思ったり、ほんと私ってやつはとことんわがままです。

『DOG LIFE & DOG STYLE』が、ここまで自由にFM世界を描くことができたのは、『THE DRIVE』があったおかげなのかも知れませんね。私はこれ読んでいないのですが、あおりを見る限り、期待されるべく、期待されるような内容を持っているようで、そしてその内容というのが、おそらくは広く受け入れられるだけの質を備えていたのでしょう。だから、ちょっと読んでみたい。読んで、それから『DOG LIFE & DOG STYLE』を再読してみたいなどと思っています。しかし、それにしてもFMはよく育ったものですよ。ゲームとして設定を積み上げてきた、その成果のひとつがこの漫画かと思うと、たいしたものだなあと、心の底から思います。

  • 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第1巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2007年。
  • 以下続刊
  • 太田垣康男『FRONT MISSION ― THE DRIVE』studio SEED作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2007年。

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