2008年4月7日月曜日

旅館府和屋四代目!

 だいぶ前の話であります。『頭脳派FC☆』という漫画がありまして、私が購読する四コマ誌の数を一気に拡大させた時期に連載されていたのですが、それはつまり、その当時の四コマを巡る状況、連載されていた漫画や雑誌の雰囲気もろもろ含めて、好きだったといってしまってよいのではないかと思います。多少粗削りな時代というとおかしいけれど、四コマを幅広く展開するための足がかりを求めて、探り探りジャンルや表現、作家の開拓がなされていた、そういう時期であったんじゃないかと私には思われて、そうか、だからか、というのは、私は伸びゆく過渡期にあるものが好きなんです。そして同時に、ゆったりとして流れる、そんな四コマの時間に安らぎを見出していたのかも知れません。その頃の四コマ漫画は、少なくとも私には新鮮で、それでいて懐かしい — 、矛盾するようだけど、そういうわくわくとした楽しみをともに落ち着ける空間であったのです。

そうした漫画たちの中に『頭脳派FC☆』もあって、タイトルの示すように、FC、サッカー部に所属する少年少女たちが主人公の漫画であったのですが、熱血でもなければばりばりのスポーツものでもなく、ちょっとナンセンスなコメディです。だからこそかも知れませんね、好きでした。そして時が過ぎ、『頭脳派FC☆』も終わり、その後、登場人物を引き継いではじまったのが『旅館府和屋四代目!』でした。ちょっとネタバレになるけど、若女将に扮した御門一誠がリフティングするシーンがあるでしょう。これは『頭脳派FC☆』時代から引き継がれた設定あってのもので、彼は勉強しながらリフティングをするという特技を持っていたんですね。ああ、なにもかもが懐かしい。ほんと、懐かしい。うちに『頭脳派FC☆』、どれだけ残ってるかなあ。

このところ、思い掛けないといったら失礼ですが、今まで頑として単行本化されることのなかったタイトルがコミックスにまとめられること相次ぎまして、私はこの動きを心から歓迎しています。好きな漫画、好きな作家の労が報われたように思うから。なにしろ、彼彼女らは私にとってのヒーロー、ヒロインであるわけですよ。好きな漫画、面白い漫画描く人となればなおさらで、だから報われて欲しい、光があてられて欲しいとそんな風に思いながら読んでいます。変な話ですよね。けど、ひいきにしている作家の単行本が出るということは、まとめて読める、残しておけるということもさることながら、まさしく光があてられた、ああよかったと思える、本当に嬉しいことであるのですね。だから、『旅館府和屋四代目!』が単行本になると聞いて嬉しかった。嬉しかったのです。

買ってみて、読んでみて、怖れていたようにやっぱりセレクション。けれど、それも仕方がない。このへんは織り込み済みでした。主要登場人物のキャラクターを伝えるための数回を経て、まさしくメインのヒロインともいえるアメリカからのお客さん、ヒナギクの登場です。ヒナギクが登場して、一気にこの漫画も華やかになったなと思われて、金髪碧眼のお人形みたいな女の子、それがヒナギク。日本びいきの父を持つ彼女は、温泉旅館府和屋に長期投宿して、ただのお客から大切なゲスト、さらには家族ぐるみ、身内同然の扱いを受けるにいたるのですが、そのだんだんと近しくなっていく過程 — 、ヒナギクの人懐っこさに始まり、彼女を受け入れる府和屋跡取りの昴をはじめとする子供たちの懐の深さ、ざっくばらんな態度もそうなら、女将さんの優しさ、かわいがりよう、たまに厳しさ、もなんだか無性に温かくってさ、ああ、これは人好きがするってやつだなって思ったのですよ。

人好きがする。ヒナギクの天真爛漫な様、それがまさしくそうなのかもなと感じられて、なら府和屋の面々の飾らずオープンな様もそうなんだと思われて、気取らない、素直、率直な態度が読者である私にしても打ち解けさせるのでしょうね。かわいいキャラクターがあって、素朴で愛らしい笑いがあって、そうしたところからももちろん魅力は感じられるのだけれども、それらを支える基礎として人好きがある。ああ、好きだと思うから、心を開いて読むのですね。受け入れられ、受け入れる、そういう相互の関係のもとに、ちょっとした安らぎの時間を楽しんで、人心地ついて、気持ちを緩めるにいたる。私が四コマに新しい楽しみを見出そうとしたあの時、求めたものはこういう気持ちだったんじゃなかったかなと、なんだか懐かしい気持ちにもなりながら、今を心地よく過ごすことのできる — 。『旅館府和屋四代目!』とは、そういう漫画だと思っています。

蛇足

ヒナギクもかわいいが! みかさんが最高だと思います。女装美少年、大好きです。

  • 神戸ゆう『旅館府和屋四代目!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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