2008年4月14日月曜日

スターシップ・トゥルーパーズ

 宇宙の戦士』を読み終え、『フルメタル・ジャケット』を経由して、たどり着くのはもちろん映画『宇宙の戦士』、『スターシップ・トゥルーパーズ』であります。って、おい、こりゃいったいなんだ。駄目だよ、これ、無茶すぎるよ。って、いったいなにが無茶といっても、兵士たちです。『宇宙の戦士』というのは、パワード・スーツという概念を持ち込むことで、歩兵を戦車隊を凌駕する存在にまで高めているからこそ成立する話であったと思うのですが、だってそうじゃないですか。生身ではまったく勝ち目などないような敵を向こうにして、一歩も引かない屈強な機動歩兵だからこそ、あの戦闘描写は成立していたのに、映画『スターシップ・トゥルーパーズ』では、確かに強化はされているようだけれどもほとんど生身。見ろ、人がゴミのようだ! いや、本当にゴミのように蹂躙されます。申し訳ないのですが、正直呆気にとられました。

この映画は実に微妙な味付けに彩られていて、多分コアなハインラインファンからは嫌われているんじゃないかなあとそんな感想が第一に思い浮かんで、はい、私も少し微妙な感じです。映画自体は、あの長い原作をうまく二時間に押し込めることに成功しているといわざるを得ない絶妙さであるのですが(本当、あの枝葉末節整理して、二時間に押し込めたのはすごい!)、しかしなんだあの能天気さは。原作では兵士の悲哀みたいなのも多分に感じられたのですが、映画ではいけいけどんどんという楽観主義が前面を覆って、超がつくくらい軽薄に仕上がっていて、だというのに人はじゃんじゃん死んでしまうという凄まじさ。でも、それが全然深刻に感じられないのは、やっぱりあんまりに明るすぎる雰囲気がためでしょう。いやね、これは自分が悪いんですけど、このDVDの到着待ちに『フルメタル・ジャケット』見てるんですね。その落差がものすごくて、どちらもおんなじようにサー・イエッサーっていってるんだけど、なんでこんなに違うんだ。『スターシップ・トゥルーパーズ』見てると、これはこれでなんだか楽しそうだぞ。描かれる死者の数は、『スターシップ・トゥルーパーズ』の方がぶっちぎりで多く、そして残忍だっていうのに、戦争なんて簡単だ! って思わせる不思議な気楽さがある。これは、ちょっと、青少年に見せちゃいかん映画じゃないかね!?

原作派からすれば、きっと受け入れがたいと思われる映画ですが、これはむしろ作られた時代の差であり(その差約四十年!)、そしてあまりに軍礼讃色を強めた原作への反旗といっていいのではないかと思うのですが、だって、普通に考えて、あの原作をモチーフに映画を作って、あんな能天気な出来にはならんでしょう。どう考えてもわざととしか思われないし、兵士にしても、お前ら用兵って言葉知らんのかっていうくらいに無秩序な戦闘して見せて、私なんかがそう思うんだから、ちょっとでも詳しい人が見たら開いた口塞がらんだろうと思います。ほら、『真・三國無双』ってゲームがありますが、あのやられるために出てくる敵兵みたいなのりで、兵士はうわーっと敵巨大昆虫に向かっていって、うわーっとやられて、退却、退却! って、お前ら、もっと強力な火器を持ってきなさいよ。なんでアサルトライフルと手投げ弾で突っ込んでいくのさ(しかもこの銃が悲しくなるほど効かない)。けどこれが悲壮感ある戦場っていうよりもむしろコメディに見えるからよりたちが悪い。でもそう見えるのは偶然じゃないと思う。だって最後のあの見え見えのハッピーエンド、穴から出ようとするジョニーの目の前に広がる風景、兵隊たちが万歳しながら、小躍りせんばかりの勢いで走っているシーンのばかばかしさ、そして私は突っ込みましたよ、おおきなかぶかよ!

これはすごいです。原作の重厚で、ある種の敬虔さを思い起こさせるような雰囲気はことごとく吹き飛ばされて、私たち3人が協力すれば怖いものなしね、お気楽極楽ドンパチ映画にされてしまって、私がハインラインなら映画化権を引き渡すんじゃなかったと涙流して悔しがるようなそんな感触に戦慄します。ラストの、それまでもたいがいでしたが、極め付けの楽天的解決からプロパガンダ映像になだれ込むつくりなんぞは、いわば戦意高揚映画のパロディでもあって、とってつけたかのような各種台詞の胡散臭さも際立って、ほんと、なんだろうなあ。微妙な映画だよなあ。

この能天気で戦争礼讃的な見た目をもって、原作のテイストを変えてその主張を際立たせたのだといわれればそうかも知れませんが、むしろ原作の主張を変えてそのテイストを際立たせているところに味があるように思われます。そしてやっぱり青少年には視聴を禁止した方が良い、真に受けられても困るしさ、映画であるかと思われます。

引用

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