2008年7月16日水曜日

迷彩ハーレム

 少女漫画でも少年漫画でも、男子禁制の場所に紛れ込んだ男子であるとか、あるいはその逆、そういう設定を持ったものは本当に多くて、なんでなんでしょうね? 夢のシチュエーションとでもいうのでしょうか、性別を偽り隠れるようにして暮らすものがあるかと思えば、こちらは男子一人パターンに多いと思うのですが、圧倒的に優位な立場にある女性陣に翻弄されてしまうであるとか、けどいずれにしても夢のシチュエーションなんでしょうね。本来ならいるはずのないイレギュラーとしての異性が、思わず巻き起こしてしまう恋愛のドラマ。性別偽ってるケースなら、好きなあの娘と親友になってしまって、だからこそ自分の真実を明らかにできない! なんてのはパターンでしょうか。そして性別を偽らないケースであれば、身の回りに魅力的な異性が山ほどあって、それはさながらハーレム! というのがパターンとなるのかも知れませんね。

松山花子の『迷彩ハーレム』は、本来ならいるはずのない女性の紛れ込みものにして、そのタイトルが示すようにハーレムものであります。いや、そうか? これハーレムか?

だって、松山花子だもんなあ。一筋縄ではいきません。だいたいにしてヒロイン黒木伊吹がくせ者で、というか松山花子だったら普通のような気もしますが、お家の事情から完全寄宿制の男子高に潜り込む羽目になってしまった伊吹は、少々特異な学校に見事に適応してみせるどころか、それこそ掌握せん勢いを見せつけて、もうやりたい放題。教育の一環で軍事教練を取り入れたエリート養成校、だから男はそれなりの猛者ぞろいであるのだけれど、南の島で少々ワイルドに育った伊吹は、負けないなんてものではなく、あっさりとそれを上回ってみせる。そして、伊吹の魔の手は次々と学内のいい男に向けられて — 、けどそれが伊吹の思ったとおりにならないっていうのもまた松山花子らしいと思います。

だって、普通のラブコメを描こうだなんて思っていらっしゃらないだろうし、そもそも松山花子を読もうという私にしても、普通のラブコメなんて期待してませんから。普通のラブコメはそれはそれで楽しむけど、そうじゃない、それこそ一癖も二癖もある漫画が読みたいんだっていう人が手を出すもの、それが松山花子だと思うんですが、ええ、『迷彩ハーレム』も確かにそうで、癖があって、そのひねたところが面白い。ヒロインは欲望にまっしぐらだし、いい男たちはというと、どいつもこいつも問題ありだし。自分を直視できない男や、微妙に近寄りがたいマニア、そしてかわいいもの大好きだったりという、けれど、そうした難ありの男たちが、必要以上におとしめられることはないというのは安心で、それどころか意外にチャーミングに描かれたりするのを見ると、これこそ松山花子のよさだよなあと思わないではおられません。

そうそう、書いていて思ったんですけれど、松山花子ヒロインといえば欲望に忠実でやり過ぎるくらいに暴走してしまう、そんなのが多いですけど、これはターゲット読者であろう女性が、それだけ普段欲望をあからさまにできないっていうことを意味していたりするんでしょうか。そりゃ男だって欲望全開で生活はできないわけですが、しかしその男に比べてより以上に欲望の発露が制限されている。そう思うと、なんか女性って大変そうだなあって思います。ただ、こういってはなんですが、欲望をあらわにし、自由すぎるほどに自由であろうとする松山花子のヒロイン像は、見ていてすがすがしくて、魅力的と感じます。けど私は、間違ってもそうしたヒロインのターゲットになることはあり得ない。だから、安心して他人事で楽しめるのかも知れません。

  • 松山花子『迷彩ハーレム』(バーズコミックス ガールズコレクション) 東京:幻冬舎,2005年。

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