2008年7月7日月曜日

L16

 私は控えめな女性が好きです。ゆえに、控えめ女性がヒロインである『L16』はかなりの威力をもって私に迫ってきて、性格が控えめな姉、春香さんに、体型が控えめな妹、奈々香ちゃん。ああ、もう、綺麗だったりかわいかったり、美人だったりキュートだったり、素敵だったり可憐だったりして、もうどうしようもないな。って、どうしようもないのは他でもなく私自身であるんですが、でも見てるだけで仕合わせなんだから仕方ないじゃないか。って、正当化にならない正当化をしたところで、簡単に説明をば。『L16』はレディー・シックスティーンの略でありまして、すなわちヒロインは元気さが魅力の妹さん、奈々香であります。12歳離れた綺麗なお姉さんに憧れて、目標にしている。その頑張りと背伸びと空回りがまたかわいいという漫画であるのですね。

妹はお姉さんが大好きで、姉も妹が大好き。そんな姉妹のラブラブ生活が第一の魅力として押し出されている漫画ですが、けれど美人姉妹のラブラブぶりだけですむなんてことはありませんで、なにしろ作者は『すいーとるーむ?』を描いている東屋めめです。色気感じさせる絵柄でもって、妙にシビアなネタを展開したりする、そういうのが持ち味でいらっしゃるようで、そして『L16』にしても同様のテイストは含まれているから、油断できないというんですね。

『L16』におけるシビアさは、例えばフリーペーパー編集者である姉春香の職場の状況なんかがそうで、使えるものなら社員はもちろん社員の身内までばりばり使う。予算がない、人出もないという状況を乗り越えるのは、熱意とそしてハードワークだ。妹奈々香もそうした現場で揉まれながら、素敵なレディを目指すのですが、女子高生の初々しい職場体験もののテイストの向こうに、剣呑な大人の職場の空気がちらほらとする、そのギャップやらなんやらがおかしくてたまりません。

シビアなおかしさといえば、奈々香の担任みゆきなんかがまさしくそうした要素を凝縮するようなキャラクターになっていて、姉春香が清純派なら、ええと、みゆき先生はなんなんだ? 悪女? お色気係? 豪快にして傍若無人、女であることを最大限に活用し、男を振り回すような身も蓋もない女性であるのですが、奈々香にとっては反面教師に、そして男性読者にとっては夢を壊してシビアな現実にたたき落とすような酷い人になっていて、けどその酷さが面白いのですね。この漫画では、奈々香と春香がどうしたっていい人過ぎ、清純純朴すぎと感じられてしまうから、その反動としてみゆき先生の活躍が重要になってくるといった風があるんです。いわば、汚れ役を引き受けてくれるみゆき先生のおかげでバランスがとれて、きれい事すぎない、理想的すぎない、そんな表現になっている。そして、その上でみゆき先生が奈々香、春香に関係することで、彼女らの日常を表現するにあたっての幅の広さ、キャラクターの多面的な魅力も引き出されるのですね。

奈々香の魅力を引き出すにあたっては、友人のユキちゃんなんかもいい味出していて、小さくて、お人形さんみたいにかわいくて、ゴスロリ衣装も似合う、そんな女の子が微妙に腹黒さ、あるいは自分大好き感を出していて、いい対照になっていました。けど、みゆき先生にしてもユキちゃんにしても、自分に素直で、見事に自由で、そしてそういう風合いがすごく魅力的であるんですよね。私は控えめな女性が好きだから、みゆき先生に関しては女王様なところくらいにしか魅かれないのですが、ユキちゃんは見事にその微妙なきつさも含めて好みであります。実際、こういう自由で闊達な女性を魅力的に描くことにかけては、東屋めめという人はうまいなと思います。

うまいといえば、押しの弱く煮え切らない男を描かせても絶品ですね。ええ、この漫画にも健在ですが、けど男についてはどうでもいいので、『L16』に関しては以上です。

  • 東屋めめ『L16』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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