2009年1月31日土曜日

うちの姉様

 パティシエール!』の野広実由が『まんがくらぶオリジナル』で連載している漫画、『うちの姉様』が単行本になって出るという話を聞いて、実はちょっと楽しみにしていました。私は竹書房の雑誌は買っていないので、これが初読となるわけですが、面白いのかなあ、どうなんだろう、ちょっとの不安とそれから期待をともに読みはじめて、そうしたら面白いではないですか。東大に通う優秀なお嬢さん、日高涼音がヒロイン。彼女には小学生の弟と妹がいて、だからあねさま、であるのでしょう。しかし、このお姉さんが極端にマイペースで、ある意味豪快、少々無神経、けれど魅力的。実によい感じでありまして、しかし味のあるキャラクターだなあ、そう思っていたらなんとモデルがいらっしゃるらしい。わお、世の中はすごいな、希望が湧いてきたぞ。

モデルがあるためでしょうか、涼音はわりと常識の範疇に留まっていて、というのは人間離れしたような描写がないということをいっているのですが、現実にありうる程度の変人度合い、とはいえ、あんまり身近にはいないタイプかも知れませんね。でも、Suica(関西ではPiTaPa)をカバンごと使う人はいます。朝の通勤で一緒になるおじさんが、自動改札にヴィトンのセカンドバッグをどしっとのせて通ってゆかれる。けど、あれを見て、変わった人だなあではなく、いかすなあ、と思う私もたいがい変わりものなのかも知れません。

涼音が変わりものと感じられるのは、涼音が自分にとっての効率や快適を求めるその際に、いわゆる世間や世の中の規範というものを意識しないという、そこに理由があるのだと思われます。普通なら、人目を気にしてそうはしない。たとえ自分にとっての快適がすぐそこにあったとしても、ぐっと我慢をしてしまう。ところが、涼音は躊躇なく、自分の都合を優先させてしまうのですね。はたしてそれを傍若無人、自分勝手ととるか、あるいは自由闊達、天衣無縫と見るか、そのとりようで評価はいかようにも変わってしまう、そんな人だと思います。そして私はこの人については、その自然体がよいなと思って、ええ、こういう感じの人、好きなんですよね。

涼音の自在な性格は、おそらくそれだけではそれほどに際立つことはなかっただろう、そんな風に思うのは、彼女の弟、妹である倫、るるの存在があるからこそ、その魅力が発揮されていると感じるからです。倫は小学二年生、るるは一年生、そうした年少の子らの方が常識をわきまえているところがある。そう、大学二年生の姉の方が子供以上に奔放であるのですから面白い。枠にはまらず、自分の思うままに振る舞う、そうしたスタイルは本来なら子供のらしさといわれるところであるのに、この漫画では子供が大人の分別を持って、年長者をたしなめる側にまわるのですね。ゆえに、涼音のフリーダムさはより一層に強調されることとなって、ともないその魅力もぐっと引き出されるといった具合であるのです。

さて、その涼音に恋慕する男、遠野が問題であります。あからさまに涼音に興味ありありなのに、涼音を前にすると、お前なんかなんとも思ってねーよ、といわんばかりに、おかしな態度をとってしまう。その姿は、最近の言葉でいえばツンデレ、けどスタイルとしては小学生の男子よの。まあ、ああした行動をとってしまう人は大人にも一定数あるというのは周知のことで、たまさか本日公開された「その愛情表現だと嫌われる」なんかはまさしくその典型であります。だから、遠野君は『理系のための恋愛論』を読むといいよ。なんて思ったりして、しかしこの遠野君にもモデルがあるというんですね。わお、これも驚きだ。けど、特にめずらしくないタイプともいえるような……。理系というか、オタクに多いタイプにも思えます。

遠野は数学科かと思ったら、実験とかしてるから物理なのかも。でもまあ二年生だからまだ前期課程なのか。名前が理一だから、理Iなのかななどと思ったりして、もし今後大学のことが描かれるなら、涼音とは違う学科に進んでいくのかも知れませんね。ヒロイン涼音はというと、宇宙の勉強しているとかいってたから宇宙物理あたりに進むんでしょうか。もしそうだとしたら、卒業後にはリコーダー奏者を目指すといいと思います。いやね、私の知人のリコーダー奏者は京大の宇宙物理を出てるのだそうで、だからきっと涼音も素質ありです。先生の持ちネタである救急車のサイレンは、ドップラー効果もついていて、秀逸。涼音さんもいずれはそうした域に逹していただきたいものだ、なんていい加減なこといっています。しかしあの先生も面白く魅力的な方でした。こうした先行事例を見ても、フリーダムな人の素晴しさというものがわかろうもの。涼音さんも、その魅力をよりいっそうに磨いていただきたいものだ、そんなこと思ってます。

  • 野広実由『うちの姉様』第1巻 (バンブー・コミックス) 東京:小学館,2009年。
  • 以下続刊

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