2009年2月10日火曜日

たまのこしかけ

 『たまのこしかけ』のヒロイン、たまこさんは35歳。バブル期入社のOLだなんていってるけど、そいつはちょいと計算おかしくないかい? 35歳ってことは、平成に入ったその頃は高校生。卒業時にはバブルはとっくにはじけていて、世の中不況だなんていっていた。たまこさんは、勤続15年ということで短大卒。おそらくは、卒業のころには景気も上むいているだろうと予想していた口なんじゃないかと思われますが、いやあ現実はきびしい、その予測は見事にはずれ、景気はなおさら冷え込んでいたんです……。いや、別に厳密にそのへんを追求したいわけじゃないんです。実は、私の人生がまさしくそんな感じで、振り返るその時々に、たまこさんの足跡を見付けることもできるんじゃないだろうか、そんな期待があったりしたんですよ。だから、すごく身近な存在、それがたまこさんだと思います。でも、この連載が始まったのは2006年でしたっけ。ということは、本当ならこの人は今38歳くらいなのかな? うん、いい年頃じゃないですか。女性の魅力は、十代には十代の、二十代には二十代の、そして三十代には三十代に特有のものがあって、ええ、たまこさん、充分以上に魅力的ですから! ああいう女性、現実にあったら、きっと人気があるんじゃないかなあ、少なくとも私はとっても好きそうだ、そんな風に思います。

けれど、私はたまこの上司、川越係長が好きです。ああ、あんた女装美少年好きだもんね、って、いや、そういうわけじゃないんです。ミキティは、女装美壮年です。ときめくね! じゃなくて、係長はたまこと同い年。気があうんでしょうか、いつも一緒になにかしてるって印象があって、気を抜くと女を忘れてしまいがちのたまこさんを、きゅっと引き締める、そんな役割りを担っています。

しかし、係長のような、一歩社会に踏み出すと気張っちゃう、けれどちょっと駄目な部分も持っていて、というキャラクターも魅力ですが、趣味が鉄道で、愛読書が時刻表で、そんなちょっとマニアックなお嬢さん。どことなく抜けていて、どことなくゆるくて、けれど実は結構ちゃんとしてるという、そういうキャラクターも魅力的だと思うんです。ええ、鐵分多めの、マニア好みしそうなキャラクターに仕上がっているたまこさん。もちろん私もかなり好きな感じであるのですが、しかしそのたまこさんも、時に妙にシビアな一面を見せることがあって、ああ女性作家の本領発揮であるなあ。わくわくします。

しかし、私は結局どうあがいても男であるから、女性のもろもろはわかんない。だから、たまこさんの現実、そこが駄目だといわれてしまうようなところが描かれれば、いや、そんな君が素敵だ! といい、肌のハリにはなみだをながし、秋に太ればおろおろあるき — 。けど、そんなたまこさんがまぶしくてしかたないんですが。基本、服の下には身体が存在しないかのような、そんな女性が好きな私であるというのに、たまこさんの身体表現、腰から腿にかけての肉置きのかもしだすアトラクション、私はそうした身体というリアリティを憎んでいるはずだというのに、あらがえない。必要以上に魅惑的と感じられるたまこさんでありますが、あの裏表紙など見ると、係長はいったいどうなのか。いらぬこと考えてしまいますが、まあ、三十代、ちょっと体のラインも崩れてなんていいますが、そのちょっと崩れたところなどなかなかだ、そういったら、あんたはおっさんかといわれたことも懐しい。いや、けれど実際、悪くないものであるのです。

そして、たまこさんはその性格がいいんだと思います。無闇に高望みするようなところがない。自分で自分を楽しませる術を知っている。無理に飾るところがなくて自然体。決して怒らず、いつもほがらかに笑っている。そういう人に、私は会いたい。実際、なにに焦るのでもなく、自適に暮らしを楽しんでいるという、その姿、そのスタイルが魅力的であるから、読んで、いいね、と思うんでしょうね。だからやっぱり私は思うんです。花の命は結構長い。枯れたならば、枯れた魅力もあるでしょうが、35歳は枯れるにはまだ早すぎる。そして実際、たまこさんも係長もいきいきとして、その生命のあふれる感じにまたもひかれてしまうのでした。

  • 荻野眞弓『たまのこしかけ』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2009年。
  • 以下続刊

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