2009年5月17日日曜日

わたしの大切なともだち

 袴田めらの新作、『わたしの大切なともだち』の第1巻が発売されたとのことで買ってきました。この漫画は、双葉社の雑誌『コミックハイ!』の公式サイト、Webコミックハイ!にて連載されておりまして、はじめてそのことを知ったときは、もうそういう時代になったのかと、遅まきながら気付いて、驚いて、そして毎月の掲載を楽しみにしていたのです。で、それがこうして単行本としてまとまって、じゃあ買わないわけにはいかないな。こうしたWeb連載という試み、そしてそこから単行本としてリリースされるというサイクルを応援したいと思ったのでした。もしかしたらあと数年もしたら、雑誌という媒体は縮小して、こうしてWeb上で展開されるものとなって、さらには単行本も電子化される。そんな日がくるのではないか。その先駆けのように感じて、だからちょっと応援したくなったのです。

『わたしの大切なともだち』は、なんだかちょっと不思議なお話。ヒロイン海老澤笙子は、美術大学の受験に失敗。それで専門学校に進路変更したのですが、そこで出会ったのが、幼馴染みの田中橘。しかし、彼女は記憶を失ってしまっていた、しかも、ついこのあいだ街で出会ったときには、そんなそぶりまったく見せていなかったというのに……。

笙子が、専門学校で出会う、個性的な友人たち。彼女らと一緒に、自分の夢とはなにであるかを確かめながら進んでいこうというようなプロットは、なんだかすごく健全で、どうしても迷いがちで、同時にあきらめがちである人 — 、私のような人間にとっては、皆おなじように不安を感じながら進んでいくのだという安心感を与えてくれるだろう、そのように思われて、そして自分もくじけずに進んでいこう、そう思わせてくれるものがあるように思います。

けれど、この漫画は、そうしたデザイン系専門学校にて学ぶ学生たちを描きながら、主には笙子と橘の関係を描いていて、むかし、小学生のころにはあんなになかのよかったふたりであったのに、だんだんに心がはなれていってしまった。大切な友だちと思っていたのは私だけだったのだろうか。そうした思いに苦しみながら、記憶を失ってしまった橘を前に、記憶が戻ってくれなくてもいい、記憶が戻れば私の嘘が明らかになってしまう、揺れている笙子の心の模様が切なくて、はたして橘の記憶は戻るのか。戻ったその時には、笙子と橘の関係はどうなるのだろうか。きっと悪くはならないだろう、そう思いながら、そうなってくれることを期待しながら、そのプロセスがどう描かれるのだろうと、不安をともに、楽しみに思っている漫画であるのでした。

作者、袴田めらは、ちょっと隙のある、そんな雰囲気をもって話を展開しながら、独特な筆致で感情のゆらめく情景を描写する、そうした作風が魅力で、だから『わたしの大切なともだち』のこの後に期待がたかまります。きっと、私の心をぎゅっと掴んではなさないような、そんな情景が描かれるのだろうと、そうした思いが期待を後押しします。先を急ぎたいとは思わないけれど、結末へ向かうその途中でおこるだろうできごとを思えば、気持ちは少し急いて、そうした気持ちの動いてざわざわとするところもまた、この漫画の力で魅力なのであろうと思います。

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