2009年6月27日土曜日

メロ3

 先月に引き続いて、野々原ちきのコミックスが出ました。その名は『メロ3!』。高校デビューをはかるオタク少年福田本太が主人公。いや、それはもしかしたら違うかも知れない。だって、主人公は彼に気のある女の子三人。小鶴木ノ子、松島ころな、高砂スズメなのかも知れないのだから。委員長タイプ、ほがらか、のんびりお嬢様という、ある種の典型を揃えてみて、しかしその三人が三人とも、ポン太のことが好きなんだというんです。なんというハーレム状況! だけど、ポン太のあまりに強すぎる自己否定感情が、彼女らの好意を認識させないっていうんだから、もうむくわれるんだかむくわれないんだか。そんな恋愛模様が楽しい漫画であると思います。

しかし、連載でも楽しみにして読んでいたんですが、単行本で読むと、より一層に面白い。そんな風に思えて、なんなんでしょうね、この単行本エフェクトとでもいうべき現象は。面白さ増幅のメカニズムはいったいどういうものなのか、読んでいて、楽しさも面白さもこれまでに感じていた以上にふくらんで、そしてなんだかじんときて泣きそうになっちゃったりもしてね。いやね、だって、駄目な子であるはずのポン太が、折々にかっこいいの。不良にからまれたりいじめられたり、それでいつもびくびくしてる。そんな彼なのに、女の子の危機に際しては、どんと前に立って、代わりに殴られたりしてみせるって、そりゃ好きになってもしかたないわ。とはいえ、そんな理由で彼女らがポン太を好きになったわけじゃないんですが。

この漫画でじんとくるのは、ポン太がかっこいい、からというよりも、ヒロインもポン太も、どことなく自信がなくって、それで迷っていたりする、そんなところにぐっと胸しめつけられるような思いをするからなんですね。ヒロインサイドではとにかく木ノ子が切なくて、『姉妹の方程式』の来来軒の悪魔っぽい女の子なんですが、気が強くて、ちょっとツンデレっぽくて、結構純情で、そしてサディスティックな嗜好があるという、まるで天使のような娘なんですが、この子が中学で委員長をしていたというその理由。それが語られる一連の流れ、ぐっときた。ポン太に認めてもらっていたんじゃん、むくわれてよかったじゃん。そんな思いもする回で、そしてこうした感情は、スズメの自分が変だと自覚した回? あそこでのポン太のはげまし。自分の発した言葉がポン太自身にも反響する、そうしたところ、とてもよかった。

基本的に、女の子がわいわいとやっているコメディなんだと思います。個性的で、ちょっとかわりもので、けどみんな素直で、彼女らの様子見ているだけでなんか楽しいのですが、そこにポン太という微妙に蚊帳の外の彼が加わる。なんのかんのいって前向きな女の子たちと、どこまでいっても後ろ向きなポン太のギャップも面白くて、やっぱり野々原ちき、いいなあって思ってしまう。ええ、すごく面白い漫画だと思います。

ところで、カバー下の落ち。あれにはちょっと笑ってしまった。妹、真都のクールなコメントにはやられました。しかし、この真都、なんのかんのいっても兄思いで、いい子だなあって思う。こういう、ぽろっとふいに描かれる、キャラクターの気持ち、それがすごくよいのだと思います。真都にかぎらず、他のキャラクターにおいても同じ。コメディの中に心をとらえる瞬間がある。その時私は、ほっと息をつくように安らぐ、そんな思いがしてすごく嬉しくなるのですね。ええ、野々原ちき、大好きな作家です。

    野々原ちき『メロ3』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2009年。 以下続刊

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