2009年9月14日月曜日

インスマウスの影

 このところ、ラヴクラフトを読んでいます。とりあえず『インスマウスの影』から。テキストは、いくつか出ているなかから、とりあえず一番買いやすそうな東京創元社版『ラヴクラフト全集』を選んで、けれど実際これがよかったのかどうかはわかりません。でも、まあ、いいか。評判のいいのを読みたいと思って、事前にいろいろ調べてみたんですけど、定番みたいなのはないみたいなんですね。それぞれに問題がある。収録方針であったり、また訳であったり、一長一短みたいで、じゃあ、まあ、適当に選んじゃっていいか。といったわけで、東京創元社版にしたのでした。

で、『インスマウスの影』。これがクトゥルフ神話の最初の短編になるんですか? クトゥルフ神話っていうのは、怪異が日常世界に隣接している。そうした話だっていうのですが、ラヴクラフトの創造した設定を引き継いで、多くの作家が同一世界を舞台にした物語を書いたとかって聞いています。また、クトゥルフものでなくとも、そのエッセンスを引用、採用しているものは多く、実際私の知っている漫画、ゲームにもそのモチーフが散見されます。例えば漫画『スプリガン』にはアーカムという組織が出てきますし、ゲームでは『カルドセプト』に出てくる水属性クリーチャー、マーフォーク、シーモンク、ダゴンあたりがそれっぽい(絵も加えればクラーケンも?)。それから、西川魯介漫画もクトゥルフ系の宝庫っぽくて、そうさなあ、私は西川魯介の漫画に出てくるもろもろを理解したくて、クトゥルフに手を出したようなものですよ。西川魯介に限ったことじゃありませんが、クトゥルフ自体を知らなくともそれらを楽しむことは可能だろうとは思うけれど、でも知っておいたほうが、なにかとよいだろう。とのことで読み始めて、その最初が『インスマウスの影』というわけです。

読んでみての感想、というほどのものでもありませんが、ホラーというほどに怖いという感覚はなく、かわりに生理的な嫌悪感が前面に押し出されているといった感じでしょうか。好ましくない感触、匂いだとか触感だとか、そういうのが執拗に語られて、インスマウスに暮らしている連中のなんともいえない嫌な感じ、その目付き、顔付き、そして街中にたちこめる生臭さなど。読んでいるうちに、ああこの街、嫌いかもなって思うようになって、そしてあのクライマックス、で、後日譚ですね。実をいうと、クライマックス後にインスマウスの街にはびこるもろもろが白日の下にひきずりだされたりするのかな、なんて思ったのですが、そうはならず、へー、こういう風にひっくり返すのか。それは、今ではもう定番といっていいような典型的ひっくり返しではありますが、ラヴクラフトがこれを書いた時代ではどうだったのでしょう。ともあれ、最初は怖れ、嫌悪していたことが、最後にはすっかり違ったように受け入れられるにいたって、その高揚した雰囲気、なかなかによいなと思わせるものがあって、こういうところが人気なのかなと思いました。

しかし、まだ読み始めたばかりです。ラヴクラフトの面白さは、きっとこれからでしょう。少しずつ読み進めていきたいと思っています。

  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』第1巻 大西尹明訳 東京:東京創元社,1974年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』第2巻 宇野利泰訳 東京:東京創元社,1976年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』第3巻 大瀧啓裕訳 東京:東京創元社,1984年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』第4巻 大瀧啓裕訳 東京:東京創元社,1985年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』第5巻 大瀧啓裕訳 東京:東京創元社,1987年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』第6巻 大瀧啓裕訳 東京:東京創元社,1989年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』第7巻 大瀧啓裕訳 東京:東京創元社,2005年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』別巻上 大瀧啓裕訳 東京:東京創元社,2007年。
  • ラヴクラフト,ハワード・フィリップス『ラヴクラフト全集』別巻下 大瀧啓裕訳 東京:東京創元社,2007年。

0 件のコメント: