2010年3月18日木曜日

ニャロメのおもしろ性教室

なんかいろいろ面倒くさいことになっています。いえね、東京都の条例改正の話ですよ。青少年の健全な育成についてなにができるだろうと考えること、それ自体はいいことだって思うんですけど、でもってなんでそれが検閲になるわけ? と憤慨してしまっているんですね。以前、『ふおんコネクト』が児童ポルノ規制法の改正について、かなり批判的な漫画を描いたことがありましたが、今回はそれの再戦ともいえる、そんな状況。いや、もう、嫌んなるなあ。ということで、このところいろいろ考えること増えてぐったりです。

そんな中、一冊の漫画を思い出したのでした。『ニャロメのおもしろ性教室』。これ、赤塚不二夫の漫画なのですが、ニャロメを先生にした学習漫画シリーズの一冊でして、しかしこれが内容充実していていい本なのです。これ買ったの小学生の時分だったのですけど、学習漫画にこうしたテーマが登場しはじめたのって、これくらいの時期だったのかなって思います。子供向けの学習漫画は、今はずいぶん縮小してしまいましたけど、そうした役割を担う漫画は健在であるようで、こと性教育となれば『ないしょのつぼみ』とかがそうなのでしょうか。読んだことないのでよくわからないのですが、青少年、子供に性というものを教える際には、彼ら彼女らが普段触れているメディアが重要になってくるのは、昔も今も違わないってことなのでしょう。

『ニャロメのおもしろ性教室』の扱う内容はかなり広範で、性とはいったいなんであるか、からはじめて、男性女性の体の仕組みや受精、出産のメカニズムの説明を経て、恋愛というもの、結婚と社会についてなど説明していくのですが、これで終わらないというのだから素晴しい。この先には多様な性のありかたとして、同性愛、ゲイですね、スワッピング、SM、フェティシズムが紹介されるのです。別に推奨するわけじゃありません。理解できないという立場があることを踏まえたうえで、それらは異常ではない、文化として存在してきたものでもある、理解できなくとも尊重すべきものであるとの考えがきちんと描かれているのです。そして、性感染症や避妊についての章がある。実にバランスのとれた内容であると思っています。

この本で語られることは、性とは素晴しいものであり、怖れたり忌み嫌ったりすることはないのだということ。性には責任がともなうということ。嫌がる相手に無理強いするなど言語道断であるということなど。性という営みについて真摯に向き合おうとする、そんな姿勢が見えるのです。性に対して目をつむるのではなく、しっかりと見て、知って、考えようという、そんな本であるのです。

そして、私はそうした考えこそが健全であると考えます。

東京都の条例改正案は継続審議となる可能性が強くなってきましたが、最終的になんらかのかたちで可決するにせよ否決されるにせよ、こうした青少年の育成に関して、私たち社会を構成するひとりひとりが、どうあるのがベターであるか、考えて、試して、実践していく必要があるのだろうな。考えさせられる数日でありました。

付録

東京都議会議員に送ったメールの文面を付録として添付しておきます。

前略、先日来報道されております「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」につきまして、お願いいたしたく存じますことあり、メール差し上げました。不躾にございますが、御一読くださいますれば幸いに存じます。

東京都議会議員の皆様が、青少年の健全な育成に関してご活動なさっていること、それにつきましては、私も社会の一員といたしまして賛同いたします。3月16日火曜日付朝日新聞朝刊にて紹介されておりましたような、青少年が深夜の繁華街に繰り出し、性的非行にいたるような状況につきましては、私も心を痛めておるひとりにございます。

ですが、そうした問題に際し、「青少年に誤った性の知識を与える」漫画等表現物があるとし、それを規制しようというのは、むしろ青少年保護の目的からすれば迂遠ないしは逆効果なのではないかと存じます。

この度の条例改正案につきましては、多くの団体等がすでに危惧を表明していますこと、すでにご存じでいらっしゃることと存じます。条例の改正により規制されうる創作物は極めて広範に及びます。青少年未成年の目に触れさせたくないと思えるものは勿論のこと、青少年の発育において特に問題となり得ないような著作物にまで規制の網はかかります。条例が過大な範囲にわたる規制を可能とするにしても、すべてが実際に規制されるわけではないとの意見も聞いております。ですが、規制されるもの、されないものの基準はどこにあるのか、それが明確でないことは表現者に無用なリスクを負わせ、結果表現の萎縮を招くことになるのではないかと心配いたします。

私事にございますが、私の蔵書に『ニャロメのおもしろ性教室』(赤塚不二夫著、角川文庫)というものがございます。私がこれを購入しましたのは、小学生の時分にございました。この本は、その表題にございますように、性を扱っております。ですが、それは徒に性的興味を刺激しようというものではなく、人にとって性とはどういう意味を持つものであるか広く真摯に説明するものであり、さらには避妊や性感染症に関する知識も提供するものでありました。

条例の改正がなされ、規制がなされるようになりますれば、こうしたものも一律に規制の対象となり得ます。結果、こうした表現物の失われることとなれば、それは社会における損失といってさえよいものではないかと存じます。

また、性というものは個人的なものでもございます。一般に理解されにくい、そうした性的嗜好、行為というものもございます。それらのうちには俗悪で目を背けたくなるものさえあるかと存じますが、ですがそうした嗜好の存在し、またそれを愛好する人間のありますことは、内心の自由の観点からも尊重されなければならないと考えます。また、こうした嗜好や行為を描くことを通じ、人間という存在について肉薄しようとする表現物というのもございます。人間の時に不条理ともいえる一面を描出しようとする表現者において、表現の規制というものは足枷以外のなにものでもありません。

「青少年に誤った性の知識を与える」表現物が存在するということに関しまして、それを規制するということは、青少年を保護するという目的におきましては、的確とはいえないと愚考いたします。誤った性の知識というものは、なにも表現物出版物を通してのみもたらされるものではなく、友人など周囲の人間からも入手されうるものであると認識いたしております。そうした、誤った知識、情報に多様に触れうるという状況におきましては、これら情報をとどめることよりも、より正確な知識を青少年に与えることの方がずっと重要と考えております。

こうした記事がございます。

HIV感染者・AIDS患者は累計1万人突破! / SAFETY JAPAN [リポート] / 日経BP社

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/report/65/

先進国におきまして、我が国のみがHIV感染者の急増を見せているとの記事にございます。

これはひとえに、性感染症を予防するという考えが浸透していないためであり、つまりは性に関する教育の不備を物語っているのではないか、そのように考えております。

今現在の青少年を保護し、また将来の母体を保護するという観点に立ちますれば、表現の規制という迂遠で、かつ弊害をもたらす方法をではなく、いかに青少年に自分自身の身と性を守るための知識を与えるかが重要であると愚考いたしております。

条例改正案に関しましては、出版界をはじめ、多くの団体、個人が注視いたしております。それは東京都議会の影響力の強さゆえであると存じます。第二の国会ともいえるほどに大きな影響力を持ちます都議会の議員皆様におかれましては、議論の輪を広げられますことを期待いたします次第です。この注目されているという状況を幸いとし、出版界を敵とするのではなく、味方につけ、青少年に正しい知識をもたらす機会を増さしめる。そのような展開を見せるようなことありますれば、どれほどに痛快であろうかと存じます。

長々と思うままに書きましたこと、お詫びいたします。また、不躾なメールをお送りいたしましたこと、再度お詫びいたしますとともに、御読みくださったことに感謝いたします。

末筆ながら、都議会議員の皆様のご活躍をお祈りいたします。

草々

追伸

本メールにつきましてのご返事等不要にございます。どうぞお読み捨てくださいますよう。

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