2011年1月12日水曜日

おしのびっつ!

 しのぶとくないは双子の兄妹。高校生に身をやつし、日々を修行に明け暮れる忍者の末裔であります。って、ちょっと嘘。兄貴、しのぶは忍者であることに誇りを持って、かなりのり気であるけれど、妹くないはむしろ忍者なんてやめたいと思っている模様。でも、そんなこといってるくないも、お母さんに厳しく育てられたためでしょうか、忍者の作法が身に染み付いてしまっていて、無意識に忍びの本性が出てしまう。今どきの娘の常識からかけ離れたくないの学生生活、そこに生じるおかしさがたまらないのですね。

しかし、この漫画の面白さは、しのぶとくないが忍者だから、というところにはないのです。もうひとつの要素、しのぶの妹好き、これが大きい。いえね、忍びの技術を駆使して、自分の利益を追求するわけですよ。妹くないは兄が好きという情報工作を行う。変装して入れ替わる。くないに言い寄る男を片っぱしから撃墜。いや、ほんとにもう酷い兄なんですが、最初のうちはやられっぱなしだったくないも、1巻中盤あたりからでしょうか、さすがこの子も忍者だけのことはある、逆襲に転じまして、ふたりが互いに入れ替わった時などは、お互いにちょこっとずつ陥れあう。あの攻防、本当に面白かった。全体にしのぶの方がやり手だけれど、妹に嫌われたくないという弱味があるから、さらには桂先輩という弱点ができたおかげで、くないにやりこめられることも増えてきて、このバランスの拮抗のためでしょう、一層に面白みは増したのでした。やっぱりやられっぱなしじゃつまらない。時に共闘し、時にしのぎを削りあう。そうした関係が面白いと思うのですね。

面白さは、くないの好きになった相手、寿先輩、彼もそうですね。どんくさくって、けれどくないにはそれがたまらない。お母さんもそうだったのだそうですよ。しのぶとくないの母、この人は忍者だけれど、父は普通のサラリーマンなのです。ほうっておけない、そんなタイプ。ひょんなことから一方的に知ることとなって、一目惚れした若き日のお母さん、あれもおかしかった。しかもお母さん、今もお父さんのこと大好きで、この人のこととなると常軌を逸する。いや、面白いですよ。そして、こうした性格はくないにも引き継がれていて、くないの恋、これ、一般的な娘のそれとは微妙に違ってる。それがいいんですね。アプローチが変、それ以前に常識がおかしいといった方がよいような。また、くないの恋路を邪魔すべくしのぶが絡んでくる。しのぶの妨害、それを出し抜こうとするくない。忍術体術その他もろもろ駆使した兄妹の抗争は、今日も楽しくにぎやかに花咲いて、勝者なし! いや、これがいいのです。ほんと、なんだかんだあっても痛み分け、仲良い兄妹であります。

  • 神堂あらし『おしのびっつ!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

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