2011年5月15日日曜日

墨色えれくとろ

 『墨色えれくとろ』は知らない漫画。書店にて表紙がふと目にはいって、女の子三人組、タイトルには墨色。ということは、高校書道部ものかと思い手にとったらば、裏表紙に墨硯筆墨汁、帯を見てもたしかに書道ものらしい。買おうかなどうしようかな、少し迷ったのですけれど、私もかつては毛筆習っていた身。ただでさえ珍しい書道漫画。それも四コマとくれば、買っておこうとなったのも自然なことでありました。さて、私はいつも最初にカバーをはずして、その下のおまけを確認するのですが、なんとそこには期待させてくれる文言ありまして、それはこの本の協力者によるもの。私大学で書道科行ってまして。おおお、もしかしたら意外にしっかり習字のこと描かれたりする!? などなど期待したのでありました。

さて、漫画は期待に添うものだったのでしょうか。ヒロインは書道好きというよりも、書道が生活に当然のように存在している物部愛里。この子をメインとして、真面目そうなモニカ・U・グラッセ、暴走気味の藤戸花、ツンデレ書道用品店の娘波多野なつみ先輩、そして字のおそろしくまずい石毛あさ美先生、が脇をかためています。あまりに浮世離れしている愛里の行動に驚かされたり、花の突拍子もない行動にふりまわされたり、そしてふたりの面倒を見てることの多いモニカ。彼女らの、書道に関係したり、しなかったりする日常を楽しむといったタイプの漫画なんですね。

で、これがなかなかに面白かった。キャラクターがいきいきとしてる、そして可愛い。これらが前提としてしっかりあるところに、書道や愛里の田舎などといった要素がアクセントとして機能する。ええ、やっぱり書道というのはこの漫画の個性だったと思うんです。授業のノートも毛筆でとる。そのノートが具体的にどんなのか示される。草書、連綿、うわ、読めねえ。達筆ってことはよくわかる、だからこそ読めないっていうことが面白いと思うんですね。ノート、読めない。テストの答案も読めない。能筆がデメリットになるっていうのね、まさに極端にマイペースな愛里らしいなって思わせるネタでして、習字という題材とキャラクター性を同時に満足させるという点で、よかったなって思わされるんですね。雪の字を習うモニカさんなんかも、実にそれっぽい。泡がぱちんみたく、ああ、よくあるなって思えるようなのまで含めれば、習字に関するエピソードは結構多いんですよね。回を重ねるごとに、習字に関するエピソードは減り、キャラクター性を押し出す傾向は強まるのですが、意図されたものかどうなのか、だんだんに皆の仲がよくなり、互いの距離が縮まってるみたいな、そんな雰囲気思わせたりもしたんですね。

毛筆を習ってた人間としては、もっと書道のこと出てきてもよかったけれど、多分これくらいのバランスがいいんだろうな。そんな感じ。書道もあり、普段の生活、楽しい日々もあり、そして最後の進路の話みたく、わかってるようでわかってない部分が見えたりもする。ええ、そうした多様に現れてくるいろいろが面白かった。買ってよかったと思える一冊でした。

  • 黒渕かしこ『墨色えれくとろ』(バンブーコミックス) 東京:竹書房,2011年。

引用

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