2013年7月8日月曜日

趣味じゃない園芸

 『趣味じゃない園芸』は植物園を舞台にした四コマ漫画。作者調べによると、初の植物園四コマ、らしいんですが、確かに自分の記憶を掘りおこしても、植物園を舞台、テーマにした四コマ漫画って思い浮かばない。もしかしたらあるのかも知れないけど、珍しいことは確かなのかも知れません。ただ、園芸となるとそこそこあるんですよね。園芸部。学校の部活で植物育ててるって感じのやつ。あと農業。植物を育てる、収穫する、そういうの。でも、企画たてたり来園者を呼び込む工夫をしたりとなると、やっぱり珍しい。ええ、ただ植物の手入れをして花を咲かせてだけじゃない。そこが趣味じゃないという所以なのでしょうね。

この漫画、見せどころは一癖も二癖もある登場人物。こういうところは、作者の持ち味、そうした感があります。一番の若手、小野山蘭は、いつかはプラントハンターと夢見ている女の子! って、なんで植物園に就職しちゃったの。彼女が植栽課の先輩藤野と一緒に、植物園内情いろいろ教えてくれる。植栽課らしく、植物の世話をするエピソードあれば、集客が振わない園をどうしたら盛り上げられるか、建て直せるか、皆でアイデア出しあったりと、こうした仕事らしい仕事の風景が描かれながら、自分の好きなこと、やりたいこと、楽なこと、暑さ寒さしのげること優先しようとしたりして、けど頓挫したり、そもそも却下されたりと、そうした仕事ぶり。園が崖っぷち、合併だとか縮小だとか、そんな噂がたったり消えたりしてる、ともすれば暗くなってしまいかねない状況なのに、こんなにも明るく楽しそうに感じられるその理由のひとつに、蘭々たちの明るさ前向きさ天真爛漫さ自由闊達さがあると思うんですね。

しかし、蘭々たち植栽課だけが主役じゃない! いや、蘭々こそが主役ではあるんですけど、脇を固める面々の面白さもまた素晴しく、マイナス思考がプラスに転じる展示普及課や、一見地味な内勤事務方管理課の面々の進化していくところなど、もう最高でして、管理課、いいですよね。彼らがどう変わっていくのか、それは読んで確かめていただきたいのでここでは触れないようにしますが、ほんと、終盤など彼らがぐいぐいと引っぱっていってくれる、そんな面白さが満ち満ちていて、かと思えば、その変化の源に蘭々の存在があったのか! いや、もう、この1巻をまとめるエピソード、それが序盤に提示された蘭々の試み、その先に育ち芽吹き花開いたものであったとは。これ、計算されてのものなのかな? そうなんだろうなあ、きっと。いやもう、素晴しいですよ。枝葉、花実として楽しませるものがある。かと思えばしっかりとした幹がある。個別のエピソードを展開しながらも、一本通ったテーマがあるから揺らがない。これに関しては、連載で追っていた時よりも、こうして単行本一冊という単位で読んだ時の方が、強く印象づけられて、ええ、個別エピソードでも面白い、一冊通して読んでなお面白い。充実した漫画だと思わされましたよ。

蘭々たちの自由さが魅力、そういっていました。けれどこの自由さというのは登場人物にとどまらず、テーマ、内容、描かれるものに広くゆきわたっている、そう感じられます。人の動き、テーマにしてもなんにしても、硬直することなく、有機的に関わりあいを持ちながら動き、呼応し、影響され、変化していく。そのライブ感がたまらなくよいと感じているんですね。この漫画の中、蘭々たちは生きて動いている。エピソードが生きて動いている。物語りが生きて動き、植物園やそれを取り巻く社会、環境もまたライブである。そうした感触がまたひとえにこの漫画それ自体が生きて動いている、そう思わせる根拠となっていて、瑞々しい。さらに伸び、広がりゆくだろう予感もまた、魅力を一層のもとしている、そう思うのですね。

  • 駒倉葛尾『趣味じゃない園芸』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2013年。
  • 以下続刊

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