2014年4月11日金曜日

メェ〜探偵フワロ

 お待たせしました、ナントカの新作、『メェ〜探偵フワロ』であります。ひつじの名探偵、フワロ氏は実業で成功した資産家にして名探偵。晩年、都会を離れ、静かな田舎にて探偵社を開業。この漫画は、そんな探偵フワロ氏の華麗な活躍を描いたもの、ではないんですね。フワロ氏、人呼んで血に飢えた草食獣。氏の求めるものは、殺人事件、猟奇事件、物騒なものばかりというんですね。ところが、氏の住まう村は平和で平和で、事件なんてありゃしない。ともない、全体にほのぼのと人情の暖かみ感じる、ハートウォーミング探偵コメディとあいなりました次第なのです。

多分。

いやね、めちゃくちゃ面白いんですよ。登場人物は主役のフワロ氏に、甥のアーサー。メイドのミスレモンと、レモンのことが気になってるヨシュア・コバーン少年、この4人がメインといったところですね。そこに加わる第三者、まれに怖ろしく強烈なキャラクターを持った人が出てくるんですけど、ああ、ヴィヴィアン、黒薔薇の君よ。最高に面白い。もう、笑いがとまらないというか、おさまったと思ったら次の笑いに襲われる、笑いの波状攻撃といった具合なんですね。いやもう、ナントカの漫画にはこれがあるからたまらない。ほのぼのな絵柄に人の情の機微を良い面も悪い面も合わせ持って乗っけてきて、ブラックなユーモアから胸にじんわりと暖かさの灯るようなロマン、人情、叙情まで、幅広く見せてくれる。その持ち味は『メェ〜探偵フワロ』にも健在で、いやもう、笑って笑って笑って笑って、そして時にほろりとする。この塩梅、ほんとすごいバランス感覚だと思う。間違いなく、手放しでおすすめできる素晴しい作家のひとりであります。

しかし、なにをどう描けば、なにをどう押し込めば面白くなる。そうしたこと、よく把握してる作家だなあと感心させられるのですよ。私は連載でもうすでに読んでるんです。だから単行本は二回目。いや、きっとそれ以上になるんですけど、なのにですね、初見の時のように面白く読めたんですね。どういう展開になるかわかってる。どういう振りがあって、どういう反応が返るかも当然わかってる。なのに新鮮さ、生き生きとして褪せない魅力に溢れていて、本当に面白かった。かけあいが面白いんです。キャラクター、その個性が魅力的なんです。そしてひとしずくのロマンが、この漫画をただ面白いだけの漫画ではなくしている。クリスマスの思い出。サンタクロースの話には、ぐっとくる人も多いのではないか。心洗われる、素朴に誰かを思う心の確かな価値。また子供の頃の素直な憧れなどに触れるエピソードも。ちょっと最近忘れてたかも知れない、そんな気持ちを取り戻させてくれる。ええ、そんな漫画でもあるんです。

けど、基本的には面白おかしく楽しく読める良質なコメディです。で、読んでいくとわかるんですけど、名探偵フワロ氏。こまったおっさん、とんでもないおっさん、そう思わせて、いやいや、この人、意外や有能だぞ! ええ、漫画だけじゃない。登場人物もまた、奥が深いのでありますよ。

  • ナントカ『メェ〜探偵フワロ』(まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2014年。
  • 以下続刊

0 件のコメント: