2016年8月14日日曜日

ダンジョン飯

 ダンジョン飯』3巻、発売されましたね。前巻発売時には、オークとの関係やマルシルとセンシ、またセンシとケルピーのエピソードなどを通じて描かれた、わかりあえないと思っていても、その確執を乗り越えていける可能性はあるよということ、あるいは心が通じあっていると思っていたのに軽々と裏切られてしまう、これは人と人の関係というより、人と自然のそれといった方がよりらしいかな? 理解や共感、相容れぬ関係、そうしたことごとが実に鮮やかで、心を強くうがった、なんてこと感じたものでした。さて今回、3巻はといいますと、これもまたぐっとくる描写が多くてですね、いやもう、すごい漫画だと思わされます。

なにがすごいといっても、ダンジョンに棲む魔物、こいつらをおいしく食べてみようという、そのナンセンスな試みと、そのファンタジーそのものである思いつきを、いきいきとしてかつ実感もったリアルなものとして読ませる描写力。もう、うなるほどにすごいのですが、それと同時に、ダンジョンにてくりひろげられる人と人の物語、これもまたすごい。これはさっきもいいました、センシとマルシル、ふたりの関係にも描かれたものでした。今回だと、ライオスたちの以前の仲間、といってもついこないだ別れたばっかりですが、ナマリもそうですね。皆にそれぞれ思うところがある。その思惑の違い、価値観の違いともいえるわけですが、それが真摯に描かれているものだから、ファリンの危機に際してパーティを離れたナマリについても、決してただ利己的な嫌なやつというわけではないのだなあ、そう思わされて、ええ、それだけ登場人物が豊かに、ぶ厚く描かれているということなのだと思う。読めば、知れば、ただその人が薄情でと、そうした簡単な評価なんてできないと思わされる。それは読者においてもそうであるし、またこの漫画の登場人物たち、彼らの感じていることにおいても同様であります。

3巻は前半においては、ダンジョンの怖ろしさというものが濃厚に押し出されていた、そのように感じます。だいたいが、ドラゴンに飲まれてしまった仲間の救出行という、わりかしハードなスタートをしとるわけです。ダンジョンには行き倒れた冒険者が転がってるし、仲間にしても死にかけた経験が語られたり、また目の前で死にそうになってる、その様が活写されたりしてきた。今回はその印象がより濃厚と思われたのは、のっけから他パーティがちょっとの油断で全滅にいたったり、さらにはそうしたピンチがマルシルにも及んだりと、ほんと、心底ハラハラさせられて、まさか死にゃせんだろう。実際死にはしなかったんですが、ほんと死と隣りあわせの死地に彼らはあるのだと思わないではおられなかった。実際、盾にされて死んでる人もいたし、というか、この世界の常識では、あれはまだ死亡状態ではないんでしょうか。ほんと、センシじゃないけど、抵抗あるわー。

後半になると、人や種族それぞれの価値観の違い、そしてその相互理解という、この漫画のテーマに関わるところが増えてきて、ああ、この漫画とはそうなのだな、あらためて思わされる。知らないものでも、知っていくことで、忌避感なく接することができるようになる。魔物についてがそう。魔物を知れば対応も可能になり、さらにはおいしく食べられるまでになる。人についてもそう。この記事においても何度も書いてきたように相互理解が確執を超えさせる。ええ、このことはマルシルとファリンの出会いの頃のエピソードにも明確に描かれて、ほんと、ふたりは互いを知り、自分にないものを相手に認め、そして友人になったのだな。

実は、私、この先の展開、少し知ってます。あまりにショッキングだったからか、掲示板にその話題が乗ってきて、『ダンジョン飯』に関係ないテーマの掲示板だったからさ、油断して、そのまま読んでしまった。それは一部なのかも知れない。あるいは全部なのかも知れない。けれど、この先の重要な展開に触れていて、ああ、そうなのかあ、ちょっと気落ちさせられるところあって、だからこそ、マルシルとファリンのエピソード。マルシルにとってファリンがどれだけ大切な友達であったのか。そうしたことを知って、切なさに、泣けてしかたなかった。

『ダンジョン飯』は魔物食という側面が話題になりやすく、そうしたところが楽しまれている漫画です。もちろん、その楽しみ方はこの漫画のメインストリームであります。でも、同時に、この漫画において描かれる人、彼らの気持ち、それらもまた絶品であるのだと実感させられる第3巻でした。

  • 九井諒子『ダンジョン飯』第1巻 (ビームコミックス) 東京:KADOKAWA/エンターブレイン,2015年。
  • 九井諒子『ダンジョン飯』第2巻 (ビームコミックス) 東京:KADOKAWA/エンターブレイン,2015年。
  • 九井諒子『ダンジョン飯』第3巻 (ビームコミックス) 東京:KADOKAWA/エンターブレイン,2016年。
  • 以下続刊

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