2013年5月31日金曜日

アイドライジング! / オリンライジング!

  本来なら私は『アイドライジング!』とはほぼ接点を持たなかった、そういってもいいくらいに想定されているだろうターゲット層からは離れていて、戦うヒロインの物語、いや、そういうのも見ます、読みますけれど、でも女子プロレス的なものとなるとちょっと自分の興味からは外れてしまうかな。そんな感じ。実際、私は『アイドライジング!』の存在にまったく気付いていなくて、じゃあなんで知ることになったのか? それは外伝、スピンオフですね、『オリンライジング!』があったからです。『アットホーム・ロマンス』でガツンとやられて以来、贔屓にしている作家、風華チルヲがコミカライジング! ラノベ原作、その外伝を描くというからには、やっぱり読むわけですよ。そうしたらこれが面白い。そうなったら当然スピンオフだけじゃなく本編、こちらも同時に漫画化、連載されていまして、読むわけですよ。そしたらこれも面白い。ええ、こいつはいい。ただ女の子が戦うアイドルになってリングに登るだけじゃない。アイドルとして自分はどのように歩んでいこうというのか。その姿がしっかり描かれて、その気持ちも意思も、ピシッと伝わってくるのです。

本編『アイドライジング!』ヒロインのアイザワ・モモは、自分の大切にしているものを守りたくて、戦うアイドル — アイドライジングの扉を叩いた。天性の才能とちょっとのラッキーでアイドルの道を進んでいく。対し、外伝『オリンライジング!』のヒロイン、ハセガワ・オリンは努力の人。アンラッキーに見舞われながらも、不屈の意思でアイドルの座を勝ち取る。

実に対照的だと思うんですね。モモはまさしくシンデレラガール、運命に見初められたヒロインであり、幸運と出会いが彼女をアイドルに変えた。けれど彼女にとってアイドライジングは当初手段でしかなくて、それが、戦っていく中で新しい感情を知り、そしてプロデューサー、オウダ・サイの思いを知ることで、アイドルとして戦うことの意味が変わっていく。モモとサイが、リング上とリングサイド、場所は違えど共に戦っていく、友情ものとしての色も帯びていくんですね。

オリンはというと、この子、とにかくうまくいかないよなあ。『アイドライジング!』におけるオリンのポジション、それはもう衝撃的で、モモとの因縁、あれはすごい役割りだったよな。生意気でいけ好かない女の子。勝気で利かん気で、他人のこと見下してるみたいなところがあって、こうしたところが描かれてたからこそ、あの仕打ちも、まあこの子だったらしゃーなしだよね。そんな感じで受け止められる。だけれど、そんなオリンの印象が『オリンライジング!』を読むと一気に違ってしまって、ああ、オリン、頑張れ。確かにオリンにも問題があって、口をついて出る言葉、その悪さ。けど、内心は全然違っている。置かれた状況を理解し、与えられたチャンスを最大に生かそうと頑張れるのがオリン。どんなに厳しい状況に置かれても、目の前でやっと掴んだと思えたチャンス、それを目の前で掻っ攫われるような目にあっても、前に進もう、夢に向かって進もう、持ち前の利かん気でもって気持ちを奮い立たせて歩み続けられるのがオリン。ああ、そしてこちらも友情ものなのですよ。わがままとわかっている自分の夢、それを応援してくれる仲間がいる、ファンがいる。

そうなんですね。『アイドライジング!』も『オリンライジング!』も、戦う自分と、その自分を応援してくれる誰か、支えてくれる友情が軸になっている。一度は潰えたあなたの夢を、ふたりで一緒に叶えよう。そうした友情のかたちがあれば、きっと日本一になれる、そうと信じて応援してくれる仲間が遠くから背を押し支えてくれる。思えば、モモやオリンだけでなく、他のアイドルたちにもそうした夢があり、背景があり、ドラマがあるのでしょう。夢を支え応援してくれる友達や仲間、ファンがあるのでしょう。ただひとりでリングに立ち、一対一、ライバルと戦う、そう見えるアイドライジング。けれど、彼女たちは決してひとりで戦ってるんじゃないんだ。そうしたことが、『アイドライジング!』、読み進めていけばわかる。『オリンライジング!』も読めば、より一層にわかる、実感できるんですね。

私はまだ『アイドライジング!』は、漫画版1巻と少しを読んだところで、今後オリンはモモの因縁のライバルになっていくんじゃないかな、そう思ってるくらいの理解でしかないんですが、って、いや? やっぱりライバルはマツリザキ・エリーなのかな? ともあれ、一種噛ませ犬、当て馬として活躍してるオリン。けど、『オリンライジング!』で見せた彼女の決意、彼女が戦うと決めたステージ、そして意地。それらは、モモのアイドライジングをより深めるものでもあり、そしてオリン、彼女の見せ場、狙いをより鋭いものにする。

同じ場所で戦いながらも、ひとりひとりが背負ったものも、求めるものも、戦う理由も、目指す勝利のかたちも、すべて違っているのかも知れない。けれど確実なのは、誰もが自分のうちに大切に守っている夢、その実現を思い、手を伸ばし、駆け出していく。その真っ直ぐさ、眩しさ。モモのサイと共に追っていく夢、オリンの心の奥に秘めた決意と高揚。それらが見事に相乗して、より一層に魅力を増していく。彼女らの夢の実現、その降り立つ場所、最後に手にする勝利はどうしたものになるのか。見守りたくなる、応援したくなる、そうした気持ちを自然と起こさせるところ、それが彼女らのアイドルたる所以なのでしょうね。

  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第1巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第2巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第3巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第4巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2012年。
  • 以下続刊
  • 藤島真ノ介『アイドライジング!』第1巻 広沢サカキ原作 CUTEGキャラクターデザイン (電撃コミックスNEXT) 東京:アスキーメディアワークス,2013年。
  • 以下続刊

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