2015年2月15日日曜日

うらら迷路帖

 『うらら迷路帖』、この漫画の作者は『夜森の国のソラニ』の人。ええ、『ソラニ』、懐かしいですね。『まんがタイムきららミラク』Vol. 2に初掲載。その独特の世界の雰囲気が魅力的で、またその世界を伝える絵の美しさ、登場人物の愛らしさもあいまって、とても気にいっていた連載でした。その人、はりかもが『ソラニ』に続いて開始した連載が『うらら迷路帖』。最初、その雰囲気の違い、ぱっと明るく、ずっと元気な様子に、どこかしっとりとしめやかだった『ソラニ』とは随分違うなあ。そんな風に思ったものでした。

その印象の違いは、ヒロインの千矢、彼女の性格のためなのかも知れません。山で暮らしていた娘。元気、明るい、おおっぴら、社会の常識にとらわれることなく、自由が身上といった風な娘。いやね、山育ち、これまで街に出たことがなかったものだから、人の社会のルールに疎いというところもあるんですよね。そんな彼女が、15になって、迷路町にやってきた。迷路町、占い師の町。15になった娘は、そこで占いを学び、一人前の占い師、うららとなるのです。

やっぱり、キャラクターが魅力だと思うのです。千矢とともに学ぶ紺、小梅、ノノ、この子らもすごく魅力的で、紺は常識やルールを重んじるタイプ。小梅は西洋に憧れる、千矢とはまた違ったタイプの自由人。そして気弱で物静かなノノ。それぞれの可愛さ持っているのですね。絵にも華やか。そんな彼女らが、それぞれのテーマに向き合ったり、未熟ながらも助けあったりする、そうしたところに現れる心情の細やかさ、切々と訴えるその確かさは健在で、ああ、この作者の持ち味、そして表現のうまさはなにも変わってなんていなかった。そう思わされたのでした。

描かれる世界、その魅力もなお力強く、大変に素晴しい。千矢たちの住まう迷路町、その町並みは、自ずからこの世界の有り様を物語るかのようにチャーミングで、そしてこの不思議な町の習わしあるいは決まり事。ただ面白いだけのイベントではないんですね。ただ物語に箔をつける制約でもないのです。まず第一には美しく、面白く描かれるその向こうに、この町に暮らすものたちの思いが隠されている。なにが大切にされてきたか。なにを求めようとしているか。それらはこの描かれる世界を豊かにし、その豊かさは迷路町に住まう千矢たちを支える力ともなるのです。彼女らが目指そうという一番占。その意味するところは回を重ねるほどにより厚みを増して、揺ぎない価値というものを感じさせるほどであります。だからこそ、千矢の決意が光る。紺の約束も輝きを増す。そうなんですね。自らを主張する世界の強さが、登場人物皆の思いと手を繋ぐことで、双方の魅力をより一層のものとするのです。こんなにも賑やかと感じる出来事の、すぐそばに静かにいきづく気持ち、心情、そうしたものに触れるほどに、この世界への愛しさもたかまるように思えます。

美しいビジュアル、美しい世界。美しい女の子たちに、そして手にし目にすることのできないものの美しさ。本当にこの漫画は、ただ表面に現れる美だけではなく、その向こう側に広がるものの美しさ、豊かにたたえて見事です。

  • はりかも『うらら迷路帖』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2015年。
  • 以下続刊

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